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 先日,同じシステム部で別の課にいた奥原(仮名)が筆者の部下として異動してきた。彼は30歳で,入社以来システム開発の下流工程の仕事を担当してきた。「中堅社員には開発だけでなく企画力やマネジメント力も身に付けさせなければならない」というシステム部長の考えを受け,筆者のチームにキャリアパスの一貫として異動してきたというわけだ。

 そこで,筆者は最初に奥原に3つの仕事をやってもらうことにした。

 それは,「(1)最近のシステムトラブルの傾向,(2)現在の組織的な品質維持の仕組みの課題と解決方針,(3)品質改善を行うための具体的行動計画の3点をレポートにまとめて説得力をもって説明してほしい」ということだ。

 筆者のチームは,システムの上流開発やシステム企画とともに,「人材教育」をテーマに研究するミッションがあり,定期的に中堅社員や若手社員を異動で受け入れることにしている。その際,初期教育としてこのような課題を課している。

 筆者は奥原にもそれを行ってもらうことにした。

芦屋: 奥原,いいか,君の最初の仕事は今説明した3つを書いて僕に見せて説明することだよ。できるだけ説得力をもって書いて,僕を納得させてほしい。
奥原: はい…,やってみます。
芦屋: お願いするよ。それで,いつ見せてくれる?
奥原: そうですね。1週間…,いや,10日くらいかかるかな。
芦屋: それは遅い…,異常に遅い。ここのチームなら皆,半日で書き上げる。半日は君にはきついから,まず,1日でどうかな?
奥原: それは,無理ですよ。できるだけ速くやりますが,やったことないので無理です。僕は今日から来たのですから,急にそんな…,このチームのルールで言われても困りますよ。
芦屋: 1日なら概略でいい。半日なら仮説だけでよい。細かいデータや論拠は不要だ。
奥原: 概略だって,すべてを調べないと書けないですよ。
芦屋: いいか,『この仕事にどれくらい時間がかかるか』と考えていては駄目だ。大事なのは『まず時間があって,その時間で結果を出すために何をすればよいか』と考えることなんだ
奥原: …できるだけ速くやります。そうとしか,言えないですよ。

 この仕事は,多少意地悪かも知れないと思っている。いきなり異動初日に,「1日で,半日で,1時間で」と言っても,ほとんどの人は「そんなことできない」と思って諦めてしまう。あまりにも現実的な締め切りでないので,「あきれてしまう」というわけである。

 だから,奥原の反応は普通であって,彼が特別だとは思わない。でも,奥原ももう30歳だ。これからマネージャーとして大きな仕事を担当する立場になる。そんな立場になれば,多くの仕事を短い時間で確実に遂行していく力が求められる。

「できるだけ速くやります。そうとしか言えない」

 それでは困る日が来る…。だから,「時間に対する考え方を変える」必要がある。しかし,多くの人は長い間癖になってきた時間の使い方が身に付いて,すぐには「時間に対する考え方を変える」ことができないものだ。