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 「2~3割削減だって。君、甘いよ。半分ぐらいになるかもしれない」。あるパーティーで大手SIerの経営者と立ち話をした時、そんな言葉が飛び出した。この前、ユーザー企業の来年度のIT予算のことを書いたが、この人によると半減もあり得るという。その後、「我々はまだよいが、下請けさんはねぇ・・・」と言葉を濁したが、言いたいことは分かる。でも、本当にそうだろうか。

 まずユーザー企業の来年度のIT予算についてだが、私はさすがに「半減説」には同意できない。まあ、この人も経営者としての覚悟と備えを語ったのだと思うが、もしそんな事態になればIT産業に大打撃なのはもちろん、ユーザー企業の中長期的な競争力も危うくなる。不況の時は売上拡大のためのIT投資は無理でも、コスト削減に向けた投資を行うのは経営の責務だ。キャッシュの流出を怖れて何もしないのは経営ではない。

 とは言え、2~3割の減少では済まないかもとは、覚悟しておいたほうがよさそうだ。既に、仕掛りのプロジェクトが中断したという話も、チラホラ聞くようになった。銀行が金を貸した企業に、「IT投資を控えるように」と忠告したというトホホな話もある。このままいくと企業のIT予算の4割を占める新規開発案件の多くが“蒸発”してしまう恐れは確かにある。

 さて、「プライム・ベンダーはまだよいが、下請けさんはねぇ・・・」の話だが、確かに大手SIerから仕事を請け負っているベンダーはこれからが厳しい。ITサービス業界の多重下請け構造が景気の調節弁になっているのは冷厳な事実だから、多くの下請けベンダーが苦境に陥るのは間違いない。単に案件が減るだけでなく、プライム・ベンダーがオフショア活用を加速させるからだ。

 ただし、すべてがそうはならないだろう。あちらこちらで“下克上”が起きる可能性がある。何かと言うと、下請けベンダーがプライム・ベンダーに取って代わるケースだ。

 開発が終わるとプライム・ベンダーは営業担当者ですら、ほとんど顔を見せない。そして下請けベンダーの担当技術者が常駐でシステムの面倒を見てくれている。ユーザー企業にはよくある話だが、彼らにとって大事なパートナーはプライム・ベンダーではない。無理を聞いてくれ、自分たちの業務も知り尽くした下請けベンダーの担当者だ。

 そんなわけだから、システムのリプレースの際に現行システムのベンダーが提案に行ったら、下請けベンダーの担当者が客側の席に座っており、その人に向かって提案内容の説明をしたというマンガのような事態が起きる。また、ある下請けベンダーが蛮勇を奮って、新規開発案件でプライム・ベンダーと競合し、見事ユーザー企業から直で受注したという話も聞いた。

 こうしたことはプライム・ベンダーにとっては“許しがたい下克上”かもしれないが、ユーザー企業から言えば当然のことだ。やはり信頼できるパートナーに仕事は発注したい。というわけで、景気後退で案件が減る今、下請けに甘んじていたベンダーには下克上にチャレンジすることをお勧めする。ITサービス業界の下請け構造はもうもたないのは目に見えている。ユーザー企業とのリレーションがあるなら、それに賭けるべきだ。

 一方プライム・ベンダーは、これまで培ってきたはずのユーザー企業とのリレーションを再点検したほうがよいだろう。直近までの好況に舞い上がって、ユーザー企業のニーズをくみ取れていなかったのではないか。見えないところで信頼関係にひびが入っていないだろうか。因果は必ず巡るものである。