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 先日,大手SIerから新製品開発についての相談があった。

 その内容については企業秘密なので公開できないが,そのとき感じたことがいくつかある。まず,その開発案は,成功すればかなり注目を浴びる予感がするが,独創的であるがためにかなりのリスクが予想され,失敗の危険を感じること。その一方で,たくましい挑戦の精神に心底感服したこと。さらに,今の不況期によくぞここまでの開発投資が計画されていると,快哉を叫びたくなるほど心強く思ったこと。そして,筆者との打ち合わせに参加した開発関係者たちのすばらしい目の輝きと迫力に痛く感銘したことである。

 米国発の金融危機が世界の経済を揺るがしている。日本も例外ではなく,景気の減速後退が全国を覆い,至るところで閉塞感に襲われている。だが,こうした厳しい経営環境の中でも,長年蓄積してきた技術に生き残りを賭ける元気の良い企業がまだまだある。日本の企業も捨てたものではない。心強い話だ。

 2008年10月21日付けの日本経済新聞に掲載された「中小企業経営者調査」のまとめ記事によると,2010年まで国内景気の減速後退が続くと覚悟する企業が全体の53%と過半数を占めている。さらに,今期の売上高が2007年度実績を下回る企業は,前回調査より20ポイント増の45.7%と半数に迫る。だがその一方で,大手企業の減産拡大の影響が深刻化する中,回答企業の21.8%が逆風下の今期も増益を予想しているという。その企業戦略の鍵は,環境やエネルギーなど成長市場をいかに取り込むかにある。

 出口が見えない状況だからこそ,元気の良い企業,特に中小企業の例をここに取り上げて,その元気のエネルギーをもらおうと思う。

新技術の商品化には長期間にわたる資金や人材の投資が必要

 まず,関東地区企業の例である。

 埼玉県川口市が鋳物の街として名を馳せたのは1960年代。「キューポラのある街」という映画でも,川口市が舞台に取り上げられた。最盛期には鋳物会社が1000社ほどあり,当時はなかなか注文を受けてくれる鋳物屋さんがなく,筆者も平身低頭してやっと鋳物を作ってもらった経験がある。今ではいわゆるブローカーを除くと,鋳物会社は70社ぐらいになったという。

 不二工業はその中に生き残った。生き残るべくして生き残った企業である。

 鋳物を作るための溶解炉は,誘導電気炉やキューポラ(溶銑炉)がいまだ主流をなす。その中で,不二工業は都市ガスを使用した純酸素バーナ式回転炉を使用している。

 純酸素バーナ式回転炉は,溶解中の自動運転が可能な上,多様な原料を溶解できる。高効率・低コスト・高品質が期待でき,そして何よりも公害が少ない。不二工業自身の説明によると,この回転炉の採用企業は日本に数社しかなく,なおかつ常時稼動しているのは不二工業だけだという。

 素材が鋳物から鋼板・プラスティックに変わるものが多い中で,不二工業は「まだまだ鋳物の需要はあるし,当社の独特の技術で注文も増えます」と意気軒高だ。

 続いて,東京都千代田区のシーベルインターナショナルは,世界初の流水式小水力発電機で2008年度東京都ベンチャー技術優秀賞を受賞した。従来の小水力発電は,段差を利用してタービンや水車を回していた。同社の発電機は,わずかな勢いの水の流れを利用して,落差なしで水のエネルギーを発電に変える画期的システムである。

 シーベルはもともと下水道の設計を本業としていた。しかし公共事業の減少に伴う受注激減で,下水利用の次の事業の柱を考えなければならない必要に迫られ,発電機を考案した。

 技術的なポイントには,段差を作らないで流速を早めることができる点,発電部分が水上にあるので製造コストやメンテナンスが有利である点,表水面に浮遊するフロート型のため水路の最大流速や最大エネルギーの表面に位置することができる点などがある。同社はこれらの新技術で特許を取得しており,今後は工場排水路・農業用水路・発電所放流渠などの利用に売り込みを図っていく考えだ。

 東京都江東区に本社,群馬県に工場を持つフジカケプランニングは,独特の製法によるアルミニュームハニカムパネルが自慢だ。蜂の巣のように連続する六角形のハニカムコアは,自然界に存在する最も安定した形状と言われる。同社のハニカムパネルは,このハニカムコアと表面材を接合したパネルである。軽量で高度の強度と剛性を持ち,安定した平面精度・平坦性をもたらし,耐久性・耐蝕性に優れる。建築物のエントランスの屋根やシェルターに使われる。

 同社の特徴は,製法である。いくつかの競合メーカーはプレスによる圧着製法を取っているが,フジカケプランニングは真空圧着製法で,ポンプで減圧しながら精度の高い強制圧着をする。接着強度・接着時間が大幅に改善した。製品の用途を広げて,年商約6億円の事業をさらに拡大すると,関係者は意気込む。

 次は,日本経済新聞に紹介されていた例である。

 東京の宇都宮工業は下水道関連設備を製造しており,2008年7月期の年間売上高は1億円以上増収の5億円強だ。2007年度までの同社は大手設備会社のOEMメーカーとして下水処理現場に設置する製品の“下請け”企業だった。ところが,顧客の悩みをヒントに開発した独自製品「下水に流れ込む油を処理する新装置」が自治体に導入され,収益に貢献するようになった。今では,首都圏だけでなく東海地方からも引き合いがあるという。

 大阪の計測機器メーカーである村上技研産業は,省エネルギー関連の需要を見込める燃料電池向けの装置で,業績を伸ばしている。同社CEO(最高経営責任者)である村上功氏は,「一般企業向けはあまり伸びないが,環境関連市場は別」と,業績拡大に自信を見せているという(いずれも日本経済新聞2008年10月22日付けより引用)。

 閉塞感のある厳しい経営環境下で,新技術によって新市場が開拓され,日本が活性化する。それを,某大手SIerで垣間見て,あるいは独自の新技術で活躍する中小企業を知るにつけ,大いに勇気付けられる。八方塞りでも,新技術は少なくとも次の飛躍のバネになる。

 しかし,新技術の商品化は思い立ってすぐできるものではない。当然,長年の資金や人材の投入が必要だ。それは,トップの経営方針次第だ。