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 ネットバブルが弾けてIT業界が不景気だった頃、ITベンダーのコスト削減策でどうしても理解できない話があった。いわく「下請けに出していた仕事を内製化することで、ソフト開発を効率化する」。変な話だ。しゃべった人に聞き返しても、にやっと笑うだけ。そう言えば最近、またそんな話を聞くようになったのだが・・・。

 この話、今ではその理屈がよく分かる。だが当時は全く分からなかった。そりゃ、そうでしょう。ユーザー企業から受注したSI案件では、原価を引き下げるために人月単価の安い外注を使うはず。なんで、内製に戻すと効率化(=原価引き下げ)になるのか。分からない。何かモノ凄い開発支援ツールができたため、オール内製での生産性が画期的に向上したのか・・・いろいろ考えたが、やはり分からなかった。

 実はこれ、簡単な理屈だった。不景気になって受注案件が減り始めると、ITベンダーの社内で技術者に余剰が生まれる。彼らに仕事がないと、その人件費は丸ごと販管費になる。案件ごとの採算性だけを考えるなら、コストの安い外注に仕事を出したほうがよいのだが、全体のコストを考えると外注の代わりに社内の技術者に仕事を回したほうがよい。つまり、案件が減少する中、外注を切って社内で“ワークシェアリング”しましょうというわけだ。

 なんのことはない。例のSE稼働率のマジックである。「SEやプログラマを遊ばせると、その人件費分だけ丸損だ。とにかく採算割れしても、仕事を確保して売上を作った方がよい」とばかりに安値受注に走るのと同じ理屈だ。

 で、いま再び「内製化で効率化、コスト削減」という話をあちらこちらで聞くようになった。つまり、いつか来た道である。ITベンダー各社は一斉に、2009年3月期決算の業績予想を下方修正し始めている。今は工事完成基準の会計処理だから、今はまだ過去の受注案件の完成で売上が立つ。でも、完成を祝った技術者たちの次の仕事が急速に減りつつある。なので、社内ワークシェアリングで・・・。

 しかし、「内製化で効率化、コスト削減」は下請け企業の犠牲の上にのみ成り立つ。景気の良い時は「パートナー」とさかんに持ち上げていたが、今は背に腹は代えられぬ。また巡ってきた人月商売・多重下請け構造の寒々とした冬景色である。しかも今回の不況は“100年に一度”だから、IT業界はいまだかつて経験したことがない。今度こそ多重下請けという業界構造は崩壊するかもしれない。

 案件がさらに減ったら、大手ITベンダーといえども、社内ワークシェアリングだけで乗り切ることはできない。その時にどうするのか。今でも「受注金額が下落し、受注をためらうような案件ばかり」との声をよく耳にする。今後「今は背に腹は代えられぬ」と採算度外視の安値受注に走るのか。世間とは一足遅れで、IT業界はこれからが本当の正念場である。