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 グーグルがGmailでころんだ。しかも続けて二度も。クラウド・コンピューティングの勃興を苦々しく思っている日本のITベンダーの中には、「ほら、見たことか」とほくそ笑んでいる人もいるだろう。だが、したり顔をしているだけではダメだ。たった1社が引き起こす障害が世界中に迷惑を撒き散らすのは確かに問題だが、ビジネスの話としては全くの別問題であるからだ。

 今回のトラブルでは、Gmailが2時間半にわたって停止した。企業向けの有償サービスGoogle Apps Premier Editionも利用不能に陥った。クラウドとしての「規模の経済」を追求しているグーグルは、無償版のGmailと企業向けの有償版で同一の基盤を使っているから、当然そうなる。まさにクラウドの最大の弱点が露呈した形だ。

 そう言えば、1カ月前に発生した前回のトラブルでは、検索サービスのトラブルに巻き込まれてGmailにも障害が発生した。人為的ミスで、検索したすべてのサイトを「悪質サイト」扱いしてしまったのだが、この機能をGmailのフィルタリングにも“流用”していたため、正常なメールも一部を「迷惑メール」に分類してしまったという。実害はなかったらしいが、企業向けの有償サービスでも同様の事態が生じた。

 さて、こうした一連のグーグルの失態をどう見たらよいのか。おそらく論点は3つあって、1つ目は、シンプルに「トラブルをけしからん」とするもの。続けて二度もトラブルを起こしたうえに、障害報告などの対応も悪かったらしい。確かに「けしからん」なのだが、グーグルのサービスはやはり信用できないと断じるのは、ちと尚早。この話は後でまた述べる。

 2つ目は、クラウドの弱点について指摘するもの。先にも書いた通り、クラウドは規模の経済を追求するため、無料、もしくは低料金でモノ凄い数の顧客を集め、インフラも複数のサービスで共用している。従って、一つのトラブルで迷惑、あるいは実害を被る企業や人は、従来のシステムやサービスに比べ桁違いになる。だから、SIerやパッケージ・ベンダーは「クラウドは危険」と力を込めて言いたくなる。

 これも確かにその通りなのだが、あくまでも社会・経済全体、つまりマクロ的に見た時の話。個々のユーザー企業から言えば、自社運用のメールサーバーが止まろうが、Gmailが止まろうが、実害は同じだ。以前、IP電話の普及期によく障害が発生したが、ユーザー企業から「IP電話は危険」と言った話は出てこなかった。PBXが故障しても事態は同じだからだ。ユーザー企業が問題にするのは1つ目の論点、つまりトラブルの頻度や障害対応の巧劣のみである。

 3つ目の論点は、「消費者向けの無料サービスを基盤とするクラウドは、やはりサービス・レベルが低すぎて企業向けには使えない」というものだ。一見もっともらしいが、実はもはや時代錯誤的な認識である。

 ネットベンチャーの人に話を聞くとすぐに分かることだが、無料メールなんかで大規模トラブルを引き起こすと、ビジネス上の大打撃となる。広告主がうんぬんではなく、利用者の怒りが爆発するからだ。メールは既に日常におけるコミュニケーション手段。多くの人が友人や恋人、家族などの会話の手段として使っている。ある意味、今や企業向けよりも個人向けの方がはるかに“ミッション・クリティカル”なのだ。

 だから、グーグルは企業向けよりも、消費者・個人の怒りや不信感を静めるために、トラブルの再発防止に全力を上げるだろう。その結果、企業向けの有償サービスの品質も向上する。消費者向けビジネスは、企業向けビジネスより、はるかに厳しい。「グーグルのサービスはやはり信用できないと断じるのは、ちと尚早」と書いたのは、その意味からだ。今は信用できなくても、すぐに信用できるものなるだろう。

 というわけで日本のITベンダーは、ほくそ笑んでいるだけではいけない。そう言えばWindowsが登場した時、「あんな危ないOSなんか、ビジネスで使えるわけがない」と冷笑していた人たちは、今はどうしていることだろう。日本のITベンダーが敵失を有効活用したいなら、いち早く「安心・安全」を旗印にしたクラウド・サービスを立ち上げるべきだ。グーグルが「安心・安全」のブランド・イメージの確立に成功したら、もはや完全に手遅れである。