PR

 IT業界から、政府にIT分野の公共投資を求める声が出てきた。経済危機から脱して将来の成長に向けたIT投資という位置付けで、電子政府・電子自治体を推進する案だ。いわば公共のITインフラの整備である。

「e-Japanをはじめ以前から多くの予算が使われており、実行済み」と指摘する向きもあるが、大きな成果は出ていない。最大の問題は目的・目標を共有しなかったことにある。様々なITシステムは構築されたものの、活用の検証・評価を怠り、バラマキ的な投資と見られたこともあった。

 作ることが目的になり、誰も使わないシステムになれば、無意味な投資になる。自治体のように、あちらこちらで同じようなシステムを作ることは無駄なのは明らか。各省庁がIT分野の予算を計上したものの、部品的なものになり、次のステップが描かれていないこともある。目標が明確になっていなかったり、プロジェクトに参画するITベンダーごとに予算が配分されたりするように思えるものもある。

 そんな問題を放置して「IT分野の公共投資」を主張すれば、ITベンダーの救済策、研究開発補助金とみられてしまう。国民という利用者視点から、国民がメリットを享受できるIT投資にする有力案が「自治体クラウド」である。電気や水道のようなユーティリティサービスにし、社会、企業、個人の活動を活性化させるとともに新しい需要を創出する環境づくりのためとする。まず特定地域を選定し、先端技術を駆使したクラウドづくりと活用にとりかかり、複数の県市町村でITシステムを共有化する。

 自治体クラウドでは行政サービスを一歩進めて、医療や教育、環境、安全、農業、さらには地域の商業、産業のデータを収集し、それらの活用法も考える。例えば交通渋滞、農産物の生産、スーパーなどの衣料品・食料品の販売などの状況である。誰でもが使えるように情報はオープンにし、もし活用メリットが生まれなければ、その事実と理由を明らかにする。

 そのためには、強力に推進する母体となるコンソーシアムのような組織を設ける。人材と技術を結集し、中長期的な目標を設定し開発に取り組む。標準化も推し進め、第三者がその達成度をチェックし、問題点を公開する。効果を上げるには、地域住民の意見を取り入れることが必要だし、プライバシやセキュリティなどに配慮することも忘れてはならない。

 自治体クラウドには、システム開発環境も盛り込む。中小ソフト開発会社の技術者が先端の開発ツールなどを活用できる仕組みだ。これまで多くの自治体が地場産業育成策の一つとしてソフト開発会社を誘致したが、成功例は少ない。彼らが力を発揮できる場を作り、地元の商業や産業、住民に役立つITを実現させる。

 日本経団連は電子行政の実現に向けた提言を何度も行っている。だが、提言にとどまり、政府の予算計上に委ねたままでは前に進めない。経団連は「内部留保は明日のためにあるもの」としているなら、政府が動かない場合、自ら旗を振るべきだろう。その実行力が問われている。米国では、オバマ大統領の就任直前、米IBMのサミュエル・パルミザーノCEOが雇用創出に向けてIT分野への公共投資を提言している。見習べき点がありそうだ。

 ※本稿は日経コンピュータ2009年2月15日号「田中克己の眼」の再録です。