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 「安定した収益基盤の強化と成長エンジンの発掘」。富士ソフトの白石晴久社長はこの不況を乗り切る戦略を語る。みずほ銀行で常務取締役CIOなどを務めた白石氏は2008年6月に同社社長に就任して以来,「この業界は残れる会社と残れない会社に分かれる」と考え、生き残り策を練ってきた。

 富士ソフトの2008年度(3月期)の見込みは、連結の売上高が3.4%減の1650億円、単体の売上高が6.5%減の835億円という厳しい状況にある。そこで、まず安定した収益基盤、つまり主力の受託ソフト開発の強化を図ることにした。白石氏は「受託ソフト開発はしばらくの間、当社の収益のベースになる」とし、この事業から稼いだものを次なる成長分野に投資していく考えだ。

 2008年10月には受託ソフト開発強化に向けた5つの施策を打ち出した。1つ目は、単体売り上げの3分の2を占める組み込みソフトと、同じく3分の1を占める業務系ソフトの両方で、リスク管理を徹底し業務の質を向上させることで収益力を高めること。

 2つ目は、業務系ソフトでプライム案件の獲得を推し進めること。ユーザーとの直接取引を実現するだけにとどまらず,プライム・コントラクタ(主契約者)として複数のIT企業をとりまとめつつ,プロジェクトを主導する立場を目指す。

 3つ目はプロダクト化だ。すなわち多くのユーザーに共通して役立つものを作り出すことである。4つ目はグローバル展開。「国内市場のパイは限られている」(白石氏)ので、例えばインドや中国、ベトナムなどアジアの携帯電話向け組み込みソフト市場を狙う。

 5つ目はグループ力の強化だ。例えば、富士ソフト社内の流通業向けソフト部隊と、流通業向けソフト専業の子会社とでシナジー効果を出せるような仕組みにする。「これまでバラバラに取り組んでいたが、協調できる部分を探し出す」(同)。

これではいずれ地面に落ちてしまう

 白石氏のたとえによれば「今の富士ソフトはグライダー」だという。エンジンなしで飛んでいたら、いずれ地面に落ちてしまうことだろう。再び上昇するには、新しいサービスや商品という成長エンジンを発掘することが不可欠である。そこで2008年10月に社長直轄の「企画部」を新設し、さらに2008年11月には戦略会議を立ち上げた。

 「これまで、野澤(前社長で創業者の野澤宏代表取締役会長)イコール富士ソフトの戦略、という状況だったので、戦略会議は必要なかった」と白石氏。だが白石氏が社長を引き継いだ今は、戦略を明確に打ち出し、全社で共有しなければ変革は進まない。部門長などで構成される戦略会議で、各事業本部から出てきたプロダクト化案件などを検討し、どこに資源を投入するのかを議論するといったことを進める。

 併せて、2009年度から開発費を予算計上する。本社が持つ数億円の枠に加え、各事業部門も開発費を予算化し、実質的には富士ソフト単体で10億円程度になる。“内需”(社内プロジェクトのための開発)に人を振り向けて、新しい事業を創出していこうというわけだ。

 実は、いくつかのプロジェクトがすでに芽吹いている。任天堂のゲーム機「Wii」をプラットフォームにしたVOD(ビデオ・オン・デマンド)サービスがその1つ。デジタル・テレビ・チューナやIPテレビ向けソフト、画像圧縮などの技術を組み合わせて、WiiのCPUに負荷をかけずに動画を通信するものだ。米国のある展示会に出展したところ、米国の映画配信会社が興味を示してくれたという。

 通信技術と画像圧縮技術を応用した、医療データなどの画像伝送サービスも開発している。目新しいところでは、軟骨再生医療の研究にも取り組む。2008年12月、東京都墨田区に開設した「細胞プロセッシングセンター」で、再生軟骨の解析・評価と再生軟骨の製造を行う。発端は、東京大学医学部付属病院に「軟骨・骨再生医療寄付講座」を開講したことだという。

 このようにして数億~数十億円規模の新しい事業を作り出す。先行事例としては、数年前から取り組んできた映像・ソリューション・アウトソーシングの3分野がある。これに続く成長エンジンの発掘と立ち上げをスムーズに進めるため、各分野に精通した人材を積極的に採用している。

 その一方で、2008年11月には「クロスセル」への取り組みを強化し始めた。これまで広島の拠点で採用された社員はずっと広島勤務であったし、一度組み込みソフト担当になればずっと担当分野の変更はなかった。だがその結果、組み込みソフト担当の社員が客先で業務システムの話を聞いても、他部門に知らせるといった動きができない組織になっていた。「所属部門のノルマ優先だったので、“敵(他部門)に塩を送る”ことになるからだ」(白石氏)。そこで評価方法を変更、「案件を獲得したら、その金額の2割相当を評価に組み入れる」ことなどを盛り込んだ。

 ソフトの受託開発市場は明らかに縮小する方向にある。そうした中で生き残るには、取引先とのパイプを太くするしかない。それでもジリ貧になるので、成長エンジンを探し出す。富士ソフトに限ったことではない。受託ソフト開発を経営の柱としてきたソフト会社全体に、早急な取り組みが求められている。