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 前回は,仕事の技術には「ある特定の会社や組織でしか通用しないもの」と「どこの会社や組織でも通用するもの」があり,雇用が不安定になってくるこれからの世の中を考えれば,後者の仕事術すなわち「どの会社でも通用する仕事術」を身に付けたほうがよいという話をした。

 今回から,どの会社でも通用する仕事術を構成する「7つの力」を具体的に説明していく。7つの力は以下の通りである。

(1)教える
(2)マネジメント
(3)仕事を頼む
(4)交渉する
(5)文章を書く
(6)褒める
(7)叱る

 このうち,(5)の「文章を書く」は連載「10年後も通用する文章術」で詳細に説明した。この連載では残りの6つについて解説していく。

 今回は(1)の「教える」を取り上げる。前回,(2)のマネジメントも取り上げると予告したが,マネジメントについては次回に触れることにしたい。

「教える」力がもたらす5つのメリット

 「教える」力を身に付けるコツを説明する前に,なぜこの力を習得したほうがよいかに触れておこう。教えることが嫌いだったり,教えることの大切さを理解していない人が,上手に教えることなどできるはずがないからである。

 教えるという行為に,ネガティブな感情を持つ人は案外多い。「自分の時間を他人に取られる割に,自分のメリットにならない」と考えているからだろう。

 筆者はそうは思わない。他人に教えるという行為は,教える側にとっても非常に大きなメリットがある。筆者は20年にわたるビジネス現場で,このことを体感してきた。

 具体的にどのようなメリットがあるのか。以下の5点にまとめることができる。

(a)長く感謝される
(b)信用・信頼される
(c)周囲から「仕事ができる」と思われる
(d)自分の理解が深まる
(e)自分一人で仕事をしなくてすむ

 順に説明しよう。

(a)長く感謝される

 教えた人が思う以上に,教えられた人は「教えてもらったこと」を感謝するものだ。何年たっても感謝の気持ちが消えないケースも少なくない。教えた人がピンチの時に,教えられた人から助けてもらえることも多々ある。

 筆者は会社でエンジニアの教育も担当したので,多くの人にいろいろな仕事を教えていた。今でもその人たちから感謝されている。仕事上で,彼・彼女らに無理なお願いをしても前向きに対応してくれるので,非常に助かっている。

(b)信用・信頼される

 感謝されるとまではいかない場合でも,教えることで信用や信頼を得る効果がある。人は自分の知らないことや出来ないことを教えてくれる人を信用・信頼するという心理的特性があるようだ。

 特に社外の取引先の担当者や役職者と短い期間で人間関係を作る必要があるときに,教えるという手段は有効に働く。先方から質問されたり,教えてほしいと頼まれたら,差し支えがない限り積極的に教えるように努めてみよう。これが良好な関係を築くコツである。

(c)周囲から「仕事ができる」と思われる

 他人にバリバリ教えている姿は,周囲から「できる人」と思われるものだ。部下や同僚,取引先の担当者だけでなく,上司にさりげなくカッコ良く教えることで,「頭がよい」というイメージを周囲に持たせることができる。当然,こういう人は人事考課上も高く評価される(人事考課では,どの会社でも「育成能力」の項目が必ずある)。

(d)自分の理解が深まる

 教えることで,あいまいだった自分の理解が深まるという効果もある。人の脳は,情報を収集する時よりも,アウトプットする時のほうが,より「動く」ものだ。自分の理解が深まると,様々なメリットがあるのは言うまでもない。

(e)自分一人で仕事をしなくてすむ

 「仕事を他人に教えるのが面倒なので,つい自分でやってしまう」というリーダーがいる。確かに,人に教えるのは時間も手間もかかる。しかし,いつまでもその状態のままだと,自分で出来る分量しか仕事ができないことになる。部下やチームメンバーも育たず,自分がいつまでも苦しいだけだ。

 リーダーが教える力を身に付けて,メンバーに同じ質の仕事をさせることができれば,自分一人で仕事を背負わなくてもすむようになる。仕事を大人数で分担して進める場合でも,担当者それぞれの仕事のアウトプットの質が均一になるので,チームで対応できるのである。

 筆者がチームリーダーに任命されると,まず仕事のルールを定義して,メンバーに対して徹底的に教える。1カ月くらい経つと,メンバーは次第に筆者と同じように仕事ができるようになる。そうなれば,筆者はすべてに関与しなくてすむので,その分,別の新たな取り組みに自分の時間を使うことができる。

 以上のメリットがあるため,筆者は自分が知っていることや出来ることを,可能な限り教えるようにしてきた。仕事全体がうまく進むからである。