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 前回は,どのような発明が特許権による保護の対象となるのかという点について検討しました。今回は具体的な事例を想定して,特許権の侵害訴訟において,どのような点が問題になるのかという点について言及しようと思います。ここでは以下の事例1をとりあげてみようと思います。

【事例1】
ソフトウェアの製造、販売を行っているX社は、ソフトウェアAを開発して、これを販売していたところ、Y社もソフトウェアAと市場において競合するソフトウェアBを製造して、販売を開始しました。ソフトウェアAとソフトウェアBを比較すると、画面の表示が類似しているほか、ソフトウェアAで実現されていた特徴的な機能αがソフトウェアBでも実現されていたため、ソフトウェアAの市場におけるシェアが低下しています。

 事例1の場合,X社としては,Y社の新規参入を阻止したいところです。その手段としては,特許権以外にも,著作権等,他の知的財産権法により対応することも考えられますが,ここでは,X社が機能αを実現するためのソフトウェアについて,特許出願していた場合を前提に,特許権に基づいて対応することを検討してみます。

1  特許権の侵害訴訟では,対象製品が特許発明の技術的範囲に属するか否かが判断される

 X社の発明がY社のソフトウェアBによって実施されている場合,Y社はX社の特許権を侵害したことになり,X社はY社の製品であるソフトウェアBを差止することができる場合があります。ソフトウェアを構成するプログラムは,特許法上は「物」であると規定され,物の発明では,生産,使用,譲渡等が実施に該当します(特許法第2条3項1号)。通常は,「生産」,「譲渡」しているか否かが争点となることは稀で,特許発明の技術的範囲に属するか否かが問題となります。事例1でいうと,Y社が生産,譲渡するソフトウェアBが,X社の特許権の効力が及ぶ特許発明の技術的範囲に属するか否かが問題となるわけです。具体的には,どのように判断するのでしょうか。

 この点について最高裁判所平成10年2月24日判決は以下のように判示しています。

最高裁判所平成10年2月24日判決
特許権侵害訴訟において、相手方が製造等をする製品又は用いる方法(以下「対象製品等」という。)が特許発明の技術的範囲に属するかどうかを判断するに当たっては、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて特許発明の技術的範囲を確定しなければならず(特許法七〇条一項参照)、特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合には、右対象製品等は、特許発明の技術的範囲に属するということはできない。

 特許明細書には,「特許請求の範囲」が記載されています。発明を特許権として登録することを希望する者は,特許請求の範囲に権利化を希望する技術的な範囲を記載し,特許出願します。そして,侵害訴訟になった場合,この特許請求の範囲の記載に基づいて,特許発明の技術的範囲を確定し,他社の対象製品と特許請求の範囲に記載された構成を比較して,特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品と異なる部分が存在するか否かをチェックしていくことになります。

 具体的には,特許請求の範囲に記載されている内容を分説し,各構成要件を構成要件A,構成要件B,構成要件C・・・と定義した上,各構成要件と対象製品を比較し,対象製品が各構成要件A,構成要件B,構成要件C・・・をすべて充足しているか否かを判断していくことになります。

 すべての構成要件を充足している場合,対象製品は特許発明の技術的範囲に属するものと判断されることになります。

 事例1の場合,X社の特許明細書に記載された特許請求の範囲が,構成要件A乃至Eで構成されていたと仮定すると,ソフトウェアBと構成要件A乃至Eとを比較し,構成要件A乃至Eに,ソフトウェアBと異なる部分が存在するか否を判断します。異なる部分が存在しなければ,ソフトウェアBはX社の特許発明の技術的範囲に属すると判断され,差止の対象となりうるわけです。