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 一人ひとりの技術者が持つ情報や知識、思いなどを共有しようと、ブログやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)、Wikiなどのコラボレーション・ツールを導入するソフト会社が増えているようだ。

 人と人とのつながりが希薄になり、自分に直接関係することしか考えなくなってきたという問題が背景にある。技術者がバラバラに動き、他人の気持ちを想像できなければシステム構築の進ちょくにも支障を来すだろう。

 ユーザー企業がIT投資の抑制をいよいよ強める中で、チーム作業における非効率の解消は最優先事項の一つに浮上している。もちろん、ツールだけで解消する問題ではない。組織体制、評価方法、技術者の育成方針など、経営方針にも大きな原因があることは確かだ。

 4000人を超える技術者を擁する日立システムアンドサービス(日立SAS)は、2008年5月からSNSなどの機能を備えたコラボレーション・ツールを使っている。同時に、一人ひとりの技術者のスキルを高める目的で「人財・知財創成システム」を稼働させた。社内の誰がどんなことを知っているかが分かる、「Know Who」システムである。

 多数の技術者がいるほど、組織全体の知識量は増えるはずだ。しかし現実はそう単純ではない。組織の人数が多いほど、誰が必要な知識を持っているかが分かりにくくなる。そこで日立SASはコラボレーション・ツールと「人財・知財創成システム」を同時に稼働させた。

 「この話ならあの人が詳しい」と分かれば、その人にコンタクトすることで、問題の解決法や有用な参考情報を入手できる。入手したノウハウに自分なりの考え方や試行錯誤の結果を加え、「人財・知財創成システム」に登録することで、新たな価値を共有できるという好循環も期待できる。

 Know Whoを定着させるうえで重要な役割を果たしたのはSNSだった。稼働から3カ月後の2008年8月時点の調査では、SNS利用者の約8割が「情報・知識の共有基盤としてSNSは有効」と答えている。SNSで組織を超えたつながりもできた。一方で、稼働から1年が経過すると課題も見えてきた。

制度とツールが相互補完

 日立SASでSNSを利用する社員は全社の半分の約2500人である。そのうち、連日意見を書き込むなど積極的な利用者は10%を占めており、ここから価値のある情報も多く生まれる。しかし、発言者や参加者の顔触れは次第に固定的になり、「なじみ客ばかりで、他の客が入りにくい喫茶店のような感じ」(企画本部の増田典生氏)になってしまう。

 こうした環境で問題なのは「さまざまな考えや立場がある」ということ(多様性)を受けいれにくくなりやすいことだ。また、SNSを使っていない2500人の中にも、価値のある情報を持っている社員がいるはずだ。そうした社員をいかにして参加させていくか。また、利用者の90%が、登録された情報を見てはいるが自ら情報発信していない。これらのいわゆる「サイレントマジョリティ」にいかに発言させるか。課題は多く残る。

 日立SASの眞木正喜執行役専務は「組織の活力を維持するためには、多様性や自律性を担保する必要がある」と語る。例えば今後、外国人の採用も増えるだろうし女性の技術者も増えるだろう。活力ある組織なら、多様な考え方や立場の社員から、多様なアイデアが生まれてくるだろう。「異なった意見をもつ相手を尊重すること」(同)はそのための必須条件である。

 眞木氏はこの課題を解決するには「非金銭的なリターン(見返り)、しかも社員が喜ぶようなものが必要」と語る。例えば、自らの成長を実感できる業務を担当したり、「こんな技術者になりたい」という規範となる人材(ロールモデル)がいたりすることが重要だ。これらはSNS活性化策であると同時に、生き生きとした組織、SEが元気になれる職場環境の条件とも重なる。

 「企業内で、自らのポジションや作り出せる価値が自他共に認められるレベルになっているというのが、技術者にとって望ましい状況だ。それには満足感、達成感、やりがいなど非金銭的な要素も重要になる。人材育成の制度を拡充するだけでなく、そこに知財を結びつけることが解決の糸口になる」と眞木氏。

 日立SASは2008年11月にスペシャリスト制度を設けるなど処遇面での改善をしている。眞木氏はこうした取り組みとコラボレーション・ツールとの併用に手応えを感じ始めているようだ。