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 最近、ユーザー企業からの引き合いが増えてきたそうである。複数のITベンダーの営業関係の人が言っているのだから、まあ、そうなんだろう。しかし、ITサービス業の景況が底を打ち改善しつつあるのかというと、逆に受注残がどんどん減り、まだお先真っ暗な状態。だとすると、考えられるのはただ一つ。そう“引き合いバブル”の発生である。

 引き合いバブルとは、偽りの案件増のことだ。ユーザー企業が声を掛けるITベンダーの数が増えただけのである。例えば1案件あたり、以前なら2~3社に提案を依頼していたのが、5~6社に声を掛けるようになったとする。それをマクロ的に見ると、引き合いは倍に膨らむ。しかも、これまで提案を求められたことのないユーザー企業から声を掛けられた ITベンダーにとっては、新規案件である。業界全体で引き合いが増えたと実感するのは、もっともなことである。

 実は、この引き合いバブルの話は4年以上前にも書いたことがある。当時はネットバブル崩壊の後遺症からようやく立ち直り、ユーザー企業のIT投資も実際に動き始めた頃だ。しかし、それにしてもユーザー企業の引き合いが活発すぎた。当時、無知な私は、ITサービス業界にとって明るい話題だと喜びつつも、活発すぎる引き合いを不審に思っていた。そこで、あるITベンダーの営業の方に謎解きをしてもらったのが、この引き合いバブルだ。

 では、ユーザー企業がどうして声をかけるITベンダーの数を増やすのかと言うと、話は簡単。ユーザー企業もIT予算が厳しいから、多くのITベンダーを競わせて料金を引き下げようとしているのだ。身も蓋もなく言えば、買い叩こうとしているわけだ。そうした中で、この前書いたようにSE稼働率が厳しいITベンダーが安値受注に走り、将来の火種を仕込む。まさに引き合いバブルと安値受注は、不況から抜け出しつつ時期の“風物詩”と言える。

 ただ、今回の不況は前回よりも深い。それに、まだまだIT投資を再開できないユーザー企業が多いから、この時期の引き合いバブルの発生には、もう一つの理由も考えられる。昨年秋以降IT投資を凍りつかせていたユーザー企業が、ようやく将来のことを考えられるようになった。ITベンダーからも話を聞きたいということで、そうした“将来のこと”を案件化した。今はまだ暇で時間もたっぷりあるから、できるだけ多くのITベンダーに提案してもらって検討しよう・・・。

 いずれにしろ、ITベンダーとしては引き合いが増えたからと言って、甘い期待を抱くわけにはいかない。ただ、ここは開き直り受注を度外視してユーザー企業に付き合うのも、一つの手かもしれない。初めて提案を求められたのならば、案件そのものには期待を持てなくても、将来を見据えたリレーションを築くチャンスだ。どうせSE稼働率が下がっているのなら、ダメもとでSEがヒアリングして提案してみればよい。SEの提案力、コミュニケーション力を磨く格好のOJTになる。

 もちろん、こうしたムダ稼働は業績面、財務面で余裕のあるITベンダーでないと難しいのは分かっている。ただ、引き合いバブルの発生は、暗いトンネルを間もなく抜けるというシグナルだ。もう少しの辛抱。武士は食わねど高楊枝ではないが、徹底的にソリューション提案力を磨き、今後に備えたほうがよい。引き合いバブルに踊り、安値受注に走るのとでは、それこそ雲泥の差である。