以前に本欄で「その製品の着想にシビれた2009年の春」というコラムを執筆した。今回はその続編である。2009年上半期を通じて,記者が思わず感心してしまった製品を3つ紹介したい。
今回取り上げる製品は,シンプルな分かりやすさという点では前回に及ばない気がする。しかし,発想のスゴさでは引けを取らないと記者は考えている。
負荷分散装置と仮想化ソフト,組み合わせの妙
異なる製品の組み合わせで記者がスゴイと感じたのは,米Coyote Point Systemsの負荷分散装置「Equalizer」である(関連記事1,関連記事2)。負荷分散装置によってアクセス負荷を割り振る先のサーバー機の台数を,動的に増減できるのが特徴だ。
負荷分散装置は一般に,あらかじめ決まった台数のサーバー機の総体(サーバー・ファーム)に対して,均等にアクセス負荷を割り振る。どのサーバー機に負荷を割り振るかをその都度決定するアルゴリズムは製品によって異なるが,サーバー機全体の処理性能は一定だった。
これに対し,Coyote Point Systemsの装置は,サーバー機全体の処理性能をアクセス負荷に応じて増減させる。どのように実現しているのかというと,サーバー仮想化ソフトと連携するのである。VMwareの仮想サーバー機を負荷分散先のサーバー機とし,仮想サーバー機の台数(および仮想サーバーを動作させているリソース)を動的に増やしたり減らしたりするのだ。
サーバー仮想化ソフト製品は,必要に応じてリソースを用意するための機能をいくつか備えている。Coyote Point Systemsは,この機能を負荷分散装置と上手に組み合わせたわけだ。言われてみればとても素直な組み合わせであり,奇抜な点はない。だが,仮に記者が製品企画担当者だったとしたら,きっとこのような発想は思い浮かばなかったと思う。
今回の負荷分散装置はハードウエアの形態をとっており,仮想アプライアンスの形態ではない。この点が,余計に「出自の異なる製品を組み合わせた」というイメージを強めているように感じる。
社内標準PC環境をノート機で持ち運べる
要素技術をビジネス・インパクトへと昇華させる力がスゴイ---。米Citrix Systemsは,筆者がこう感じる企業の1社だ。
今から10年ほど前のこと。同社は画面情報端末プロトコルICAについて,こう説明した。「WAN帯域が狭いから,企業はデータセンターを一極集中化できないでいる。狭い帯域でも平気な画面情報端末を導入すれば,データセンターを一極集中化できる」。このストーリ展開を聞いたとき,記者はその美しく完成された“王道”のプレゼンテーションに身震いしたものだ。
2009年現在,Citrix Systemsが取り組んでいる製品の一つが,クライアントPC(ノートPC)に組み込まれた形で出荷される仮想マシン・ソフト「XenClient」(関連記事1,関連記事2)である。
この製品のプレゼンもまた美しい。データセンター側ではなくノートPC側にも仮想マシン・ソフトを搭載することで,システム部が管理する社内標準PC環境と,エンドユーザーの個人PC環境を同一のハードウエアに共存させて持ち運べるようにする,というのだ。
社内標準PCのイメージ(仮想マシン・イメージ)には可搬性があり,データセンター側(XenDesktop/XenServer)でも,手元のノートPC上(XenClient)でも動作できる。ノートPCが壊れた際やオフィスに在席している時には,データセンター側の仮想クライアント機を利用する(場合によってはストリーミング配信する)。新たにノートPCを買った時や外出時には,仮想クライアント機のイメージをノートPCにダウンロードして持ち運ぶ。
社内標準PCが仮想マシンになれば,ノートPCは個人で所有すればよく,会社が資産管理する必要はなくなる,と同社は主張する。同社のプレゼンを見ていると,何か強大なものが,はるか彼方からやってきて畳み掛けてくるような錯覚に陥る。
発想の転換で年間2000ドル以上を削減
発想の豊かさとビジネス・メリットが合体していると筆者が感じる好例が,アダプテックジャパンのRAIDコントローラ「5Zシリーズ」である(関連記事1,関連記事2)。従来のリチウムイオン充電池をスーパー・キャパシタ(コンデンサ)で置き換えることで,4年間のサーバー運用で1台あたり2200ドル以上を削減する,というのだ。
RAIDコントローラは通常,リチウムイオン電池などのバッテリを備えている。RAIDコントローラが搭載するディスク・キャッシュ用途の半導体メモリーは揮発性で,停電などによってコンピュータから電源が供給されなくなると,キャッシュ内容が失われてしまう。バッテリを用意することで,突然の停電でもキャッシュに電気を供給し続けられるようにしているのである。
RAIDコントローラのリチウムイオン電池は,年1回交換しなければならない。作業にかかるコストは,サーバー1台あたり4年間で2200ドル以上になるという。
5Zシリーズは,リチウムイオン電池の代わりにスーパー・キャパシタを採用し,定期的な電池交換を不要にした。停電時にはキャパシタからの電力供給を利用して,揮発性のディスク・キャッシュ・メモリーから,バックアップ用のNANDフラッシュ・メモリーへとキャッシュ・データを退避するのである。
「へぇー」という発想と「運用コストを2200ドル削減」というメリットが密に合体しており,記者は深く感動してしまったのである。