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 ---IT業界は、受託開発を前提とした顧客従属型の多重下請け構造から、顧客と共にビジネスの成功を目指す「コラボレーション型ベンダー」と、独自のサービスや商品の開発・提供に特化した「ビルディングブロックベンダー」による水平分業体制へと大きく変わっていく---。

 少し前になるが、これは2009年7月に情報サービス産業協会(JISA)がまとめた、今後5年から10年後にかけての業界展望の結論である。「情報サービス産業を巡る市場環境に関する調査」として報告書がまとめられ、概要はJISAのホームページで公開されている。

 同報告書は、現状のITサービス産業の構造上の問題点として、受託開発型や労働集約型、多重下請構造、顧客従属型、国内産業依存型といった点を挙げる。このままでは、ITサービス市場の停滞やユーザー企業の利用形態の変化に耐えられず、ますます経営は厳しくなるだけであり、受託開発からサービス提供へ、労働集約から知識集約へ、多重下請構造から水平分業へといったシフトを急ぐことを提言している。

 「コラボレーション型ベンダー」とは、システムインテグレーションやビジネスの仕組み、さらに自前のサービスを直接顧客に提供するITサービス会社を指している。「ビルディングブロックベンダー」とは、専門性の高い独自の製品やサービスに特化したITサービス会社を指す。大ざっぱに言うと、前者は大手、後者は中堅・中小にあたるのだろう。

 実は2006年9月に経済産業省の産業構造審議会が発表した「情報サービス・ソフトウェア産業維新」、電子情報技術産業協会(JEITA)が2006年7月に発表した「情報システム産業ビジョン2016」でも、市場環境の認識や描いた将来像について同じような考察がなされている。ITサービス産業は同じ問題を指摘されながら、変わることができずにいるということだろうか。

 ある中堅ソフト開発会社の経営者は、顧客ニーズの変化や市場構造の変化は理解しているが、変革に向けた具体策を打ち出せないと嘆く。業績の落ち込みをどうするかという目前の問題を最優先してしまうからでもある。また別の中堅ソフト開発会社の元経営者は「メーカーやユーザーとの従属的な関係を改めるべきだ」と助言する。だが、メーカーやユーザーに言われた通りに開発するという、リスクを負わないビジネス・モデルを、そう容易に変えられるものだろうか。

 そう言っている間にも、需要の落ち込みとコスト削減の嵐は強まるばかりだ。ユーザーは「この予算しかないので、これでやってくれ。できなければ、他社に頼む」と言う。ユーザーの担当者がプロジェクト・メンバーの技術者を一人ひとり面接し、「この人には月50万円も払えない」と言ってくるケースもある。「2次請けは厳しい」として、ユーザーからの直接受注を狙う戦略に転換しようとする経営者もいるが、直接受注できたからと言って安心はできない。

顧客の信頼のために赤字転落?

 それでも現場では、納期遅れの恐れがあれば「ユーザーの信頼を失う」と言って人員増を求めるだろう。これでは損益分岐点は上がるばかりである。直近の各社の決算から推測すると、2009年度の売り上げは軒並み10%程度の減収になるだろう。中堅・中小の営業利益率は平均5%程度なので、売り上げがこれ以上落ち込めば、赤字転落の危険水域である。

 販売管理費の削減や赤字プロジェクトの撲滅はもちろん有効な対策である。だが現実に目を引くのは原価管理や品質管理への関心の薄さである。製造業のような厳密なプロジェクト管理の重要性を軽視する経営者が少なくない。開発方法はプロジェクトごとにバラバラであり、効率化や標準化に目を向けなかった。発生した問題を分析し、改善することを怠ってきたのだ。

 何度も書いてきたことだが、今こそ開発の合理化に真剣に取り組むべきだ。人数と時間をつぎ込む仕事のやり方を断ち切らない限り、ユーザーの値下げ要求に合理的に応じることは不可能だ。まずは時間管理やプロジェクト管理の徹底と、開発環境の整備である。標準化した開発方法論や開発フレームワーク、開発ツールを用意し、それにそった開発を進めるとともに、ソフト部品をそろえていく。それも1社単独ではなく、複数の企業との協業で実現させるのである。持ち株会社への移行は、有効な手段の一つである。

 そうは言っても、不況下ではどうしても目の前の受注獲得に走ってしまう。そこで、既存の事業を分割する。ユーザーから言われた通りにこなす古い形態の事業会社と、新しい事業を手掛ける会社とに分けるのである。パッケージ開発も後者の担当にする。例えば1000人の会社なら、900人は既存ビジネスを引き継ぎ、100人の新会社が自前のサービスや製品といった新規事業や新市場開拓に取り組むのである。ここで挙げた1割(100人)という人員は、売り上げの落ち込み分に相当するものであり、この100人の新会社が古い仕組みにとらわれず構造変革を実現させる突破口になる。

 ここしばらく、中堅ソフト開発会社は世代交代の時期を迎えている。経営トップが創業者からプロパーの2代目に移りつつあるのだ。創業者のような力強さに欠ける2代目もいる。だが、進むべき道を鮮明にしなければ、縮小均衡の流れを止めることはできない。変革は自動的に進むわけではない。次の50年への布石を打つ絶好のチャンスととらえ、行動に移す時である。