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 この原稿をスイスのジュネーブで書いている。電気通信の祭典と呼ばれるイベント「ITU TELECOM WORLD 2009」を取材するためだ。

 筆者にとって,ジュネーブでのITU TELECOM取材は実に10年ぶり。ITU TELECOMがジュネーブで開催されるのも6年ぶりのことだ。前回の2006年は香港で開催された。

 ITU TELECOMと言えば,かつては通信に関する新製品や新技術を披露する場としてにぎわっていた。ところが今回は展示会場を見ても,とても盛況とは言えない状況である。日本企業を含め,出展を取りやめた企業は少なくない。

 報道関係者が集まるメディア・センターも閑散としている。さて何を書こうかと頭を抱えるライター諸氏も目立つ。同じ時期に日本で開催された「CEATEC JAPAN 2009」の方が,きっと記事にしやすいだろう。CEATEC JAPANの様子を伝えるWebの記事をうらめしげに眺めていた。

展示ブースの代わりに商談スペースを用意

 なぜITU TELECOMのにぎわいが薄れてしまったのだろうか。以前のITU TELECOMの様子を知る方に話を聞くと,「今はけん引役となる企業が無い」ことを理由に挙げる。

 「1990年代は各国の代表的な通信事業者が勢力を競い合っていた。ジュネーブの街中が,まさにITU TELECOM色に染まったものだ。近くのレマン湖に接待用の船を浮かべる企業もあった。その後は,マイクロソフトやシスコなど米国のIT企業がテレコム市場に大きなブースを構えていた。今はそうした企業が存在しない」。

 だからと言って,ITU TELECOMの存在意義が小さくなったと見るのは早計なようだ。ある海外メーカーの担当者は,「今のITU TELECOMは新製品のアピールの場というよりも,関係者がビジョンを共有する場であり,商談の場である」と話す。つまり,イベントの役割が変化したということだ。

 こうした変化を敏感に感じたのか,このメーカーをはじめいくつかの企業は展示会場にブースを構えず,同じ会場内に広い商談スペースを用意している。ガラス張りの会議室からは,業界では著名なトップが顧客らしき数人を相手に熱弁をふるっているのが見える。

「フォーラム」で各国の本音が分かる

 筆者が今回の取材で注目しているのは,「フォーラム」と呼ばれるパネル・ディスカッションである。この原稿を書いているのは開催3日目の朝だが,2日目までのフォーラムでは興味深いやり取りが目白押しだった。

 例えば,「現在の経済状況を打開し,今後の成長にどうつなげていくのか,ICTはその成長にどう貢献できるのか」というテーマは,今回のITU TELECOMでも大きく取り上げられている。主に先進国の代表が「ICTはあらゆるビジネスの原動力になる」との意見を述べる一方で,発展途上国の代表は「ICTでは貧困の問題は解決しない」などと本音を漏らした。

 国際会議では,日本にいると見えない論点や課題が浮かび上がってくることが多い。普段は実感しにくい課題も,当事者の生の声を聞くことで多少は実感できるように思う。

 フォーラムには日本企業のトップも参加している。鳩山首相の国連での発言後でもあり「ICTの活用によるCO2削減」を訴える声が目立った。

 途上国の代表からは環境問題よりも経済発展を優先したいとする意見が多く,CO2削減を訴える日本代表は少数派のように映った。しかし,「高品質・高信頼性」を強みとする日本勢にとっては,よいアピールだったと感じる。こうした主張をしておかないと,機器やシステムの商談の場で価格一辺倒で押し切られる可能性があるからだ。

 ITU TELECOMのフォーラムでは,経済とICTの関係のほかにも,グリーンICT,ブロードバンドの普及における政府の役割,無線ブロードバンドの今後,サイバー・セキュリティへの対応策,Future Internetの行方など,今後の電気通信の方向性を占うテーマごとに意見が交わされた。

 日経コミュニケーションは,このITU TELECOMの様子をいち早く報告し,2010年以降の通信業界を展望するイベント「2010年の通信業界展望」を10月23日に開催する。関心のある方は,ぜひご参加いただきたい。