いよいよ本日(2009年10月28日)から3日間,ITpro EXPO 2009展示会が東京ビッグサイトで開催される。現状打開のヒントとなるICTソリューションが一堂に会する。ぜひ,会場に足を運んでいただきたい。
初日の目玉イベントの一つは,メインシアターで13時から開催されるグリーンITユーザーアワードの発表・表彰式である。ITを活用することで,ビジネスの成長と,環境負荷の削減を実現した企業を表彰するもので,ITproグリーンITサイトで連載中のコラム「発掘!グリーンITプロジェクト」に掲載された企業・団体がエントリーしている。
アワードの選定は,学識者・専門家で組織する審査委員会が担当した。審査委員長は,東京大学名誉教授 製品評価技術基盤機構理事長の安井至氏にお願いし,「環境とIT」の学識者・専門家5人に審査員を務めていただいた。
実際のところ,審査会はかなり紛糾した。事前審査でノミネートされたグランプリ候補4社は,いずれ劣らぬ優れた取り組みばかり。最終的に,グランプリ決定の決め手となったのは,審査委員長の“一言”だった。
その一言を紹介する前に,グリーンITを取り巻く状況を整理しておこう。
他の業界が数年以上かけて経験した変化を1年で体験
そもそも,企業はなぜ「環境」に取り組むのか。この問いに明快に答えられる人は,意外と少ないのではないだろうか。地球温暖化は深刻だが,今日明日に急激な海面上昇が起きて日本列島が沈没するということは,おそらくない。企業が日々,環境対策に取り組むにはもっとはっきりしたモチベーションが必要だ。
1990年代後半,まだ「環境はコスト」と考えられていた時代,企業の環境担当者のモチベーションを上げるのは今よりずっと大変だった。だがそこは,横並びで努力することが得意な日本の企業。業界団体が掲げた自主目標に向かって邁進する仕組みがうまく機能した。「A社がISO14001(環境マネジメントの国際規格)を取得」「B社がゼロエミッションを達成」「C社が有害化学物質の排出移動量情報を四半期ごとに公開するシステムを構築」など,“目標達成”のニュースが連日飛び交った。
だがしばらくすると,「もうやることがない」とぼやく環境部門の担当者が増えた。「目標に向かってどうすべきか=how」を考えるのは得意だが,ほぼやり終えてしまい,次に「環境のために何をすべきか=what」を考える段階になるとどうすればいいかわからなかったのである。
各社はやがて,whatを考える主体は環境部門ではなく,ビジネスの現場であることに気づく。そこでようやく,それぞれの企業で協働作業のあり方が模索されるようになった。
IT業界が環境対策に着手したのは,他の業界よりも遅い。日本で本格的にグリーンITが叫ばれ出したのは,2007年後半のことだ。
しかし,“遅れてきた業界”である分,グリーンITの波は一気に押し寄せ,駆け抜けたという印象がある。他の業界が数年以上かけて経験した変化を,わずか1年ほどで体験することになった。
グリーンITは,「Green of IT(IT機器自身の省エネ)」と「Green by IT(ITを活用した省エネ」に分けられることが多い。ユーザー企業の視点でいうと,Green of ITは“how(どうすべきか)”,Green by ITは“what(何をすべきか)”の領域となる。省エネサーバーを導入する,サーバールームの熱対策を施すといった具合に,Green of ITすなわちhowの部分は,比較的順調に進んでいるようにみえる。いま各社が直面しているのは,他の業界と同様,Green by ITすなわちwhatの部分だ。
ユーザーを巻き込みながら本業を強くする
グリーンITユーザーアワードは,まさにwhatの領域に踏み込んだ賞である。今回は最終的に6つの賞を選出した。
エントリー各社の取り組みは多彩で,それぞれに環境負荷削減で高い成果を上げている。実は,当初からそれをメインテーマにしていたものは少ない。本業のビジネスを成長させるためにとことん考え抜いた商品やサービスが,結果的に環境にも貢献したというのが実態だろう。
グランプリ受賞の決め手になった一言とはどんなものか,読者の皆さんにはもう想像がつくだろう。「この取り組みは,多くの人に(環境の)恩恵を与え,未来につながる普遍的な技術・仕組みだ」。審査委員長はこのような主旨の発言をした。
つまり,whatの領域で最も優れた取り組みに対して,グランプリを贈ったということだ。今回,グランプリと準グランプリに選ばれた企業はどちらも大きなビジョンを持ち,それを具体化する技術あるいは仕組み作りが特に優れていたといえる。
本日午後の表彰式では,グランプリおよび準グランプリの受賞企業に講演をお願いしている。はたして,どの企業がグランプリを獲得したのか。会場でぜひ受賞者の生の声を聞き,貴社ならではの「Green by IT」を発見するヒントをつかんでほしい。ITproでアワードの講評を順次掲載していく予定なので,そちらも注目していただきたい。