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 筆者には日本の携帯電話産業が,パソコン産業の歴史を繰り返しているように見える。

 1980年代後半の日本のパソコン市場の王者はNECのPC-9801だった。ところが,1990年に投入された日本アイ・ビー・エム製のOS,「DOS/V」が登場したことで流れが変わった。DOS/Vは日本語処理用の独自プログラムをMS-DOSに組み込んだOS。既に世界標準プラットフォームとなっていたPC AT互換機にこれを載せれば,日本語環境を持ったパソコンを作り出すことができた。それまではパソコンを日本語化する場合,専用の拡張ROMボードなどが必要で,そのままPC AT互換機を日本に持ち込むことができなかった。これが解決されたことで,一気に日本にPC AT互換機が流れ込むこととなった。

 PC ATの仕様はオープンであったためメーカーの競争がし烈。そのパーツは世界市場に向けて大量生産されるため,完成品は日本市場用に作られたPC-9801よりも安価だった。さらに,DOS/VではPC-9801では移植しないと動作しない海外の人気ゲームやビジネス・ソフトがそのまま利用できた。こうした理由からDOS/V機は徐々に日本に浸透していき,Windows 95の登場がとどめを刺す形となって,PC AT互換機が日本の標準機となった。

DOS/V登場前夜に似る携帯電話業界

 もちろん,インターネットの存在やユーザーとメーカーの間に通信事業者がいるといった構造が違うため,完全には一致しないが,現在の携帯電話の構図はパソコンの状況にかなり似てきている。

 まず日本の携帯電話。アプリケーションの実行環境として,NTTドコモのDoJa(iアプリ)を筆頭に,KDDIのBREW(EZアプリ)などそれぞれの携帯電話事業者に閉じたプラットフォームがある。端末のハードウエアやソフトウエアは,日本用に最適化されており,かつてのPC-9801と同じく日本でしか通用しない。当然,市場は小さく様々なコストが高い。

 一方で世界の携帯電話はオープン・プラットフォームに向かっている。中でも“PC AT互換機”になりそうな筆頭候補がAndroidだ。台湾HTCや韓国サムスン電子が世界中でAndroid端末を販売し始めているが,それに続いて続々と大手メーカーがAndroid端末への参入を表明している。まず,米モトローラが10月28日に米ベライゾン経由で端末を販売すると発表。11月3日にはソニー・エリクソン・モバイル・コミュニケーションズがAndroid端末を世界中で発売すると発表した。さらに,米デルも中国でAndroid端末を投入している。

 このAndroidへの流れが加速し,Android端末が広く世界で普及していけば,かつてPC-9801がPC AT互換機に押し切られた光景が繰り返される可能性が高い。端末開発の安さと幅広いユーザー層に支えられて作り上げられた多様なサービスの魅力によって“日本古来”の携帯電話が消されてしまうことになる。そうなったときには,日本の携帯電話メーカーもAndroidに大きく舵をきらざる得なくなるだろう。

 ちなみに,iPhoneは“PC AT互換機”にはなれないだろう。パソコンのMacと同様にファンに支えられて,ある程度のシェアを持ちながら残っていくことになると筆者は思っている。米アップルはiPhoneのプラットフォームを外部には公開しないだろうから,端末のバリエーションやサービスの多様性でAndroidに負けてしまうと考えるからだ。

Android普及の鍵を握る“OPhone”

 とはいえ,Androidが携帯電話の“PC AT互換機”になる時代が本当に来るのだろうか。これを見極めるうえで注目しておかなければならない市場が中国だ。中国でAndroidが普及すれば,それが世界をけん引する力となる。
 
 こう考える最大の理由はその人口と成長力,そして中国のユーザーシェア7割を握る携帯電話事業者,中国移動(チャイナ・モバイル)の存在がある。まず,人口については約13億人もいる。米国の3億人,EUの5億人,日本の1億2000万人を足したよりも多い。

 携帯電話市場の成長力という面でも底が知れない。中国の第3世代携帯電話サービスは今年始まったばかりで,ユーザーは微々たるものだ。一人当たりの平均所得は先進国に及ばないが,高い経済成長を背景に今後購買力は着実に上がっていく。つまり,高機能な端末を持つ可能性があるまっさらなユーザーが13億人もいると見なせる。

 そして中国移動はAndroidの採用に積極的だ。中国移動はAndroidをベースとした同社仕様の端末「OPhone」を策定。これをパートナー・メーカーに作らせている。そのパートナー・メーカーの顔ぶれが豪華だ。今や世界第2位の携帯電話メーカーとなったサムスン電子,3位の韓国LG電子,4位のモトローラに加え,パソコン大手のデルや中国レノボ,家電大手のフィリップスなどがOPhone端末を開発している。

 OPhoneが他のAndroid端末と違うのは米グーグルのサービスを搭載しないこと。その代わりにチャットやiチャネルに似たプッシュ型情報配信など中国移動のサービスを大量に組み込んである。さらに中国移動は,OPhoneに対してアプリケーションをダウンロードして追加できるように専用のアプリケーション・マーケット「Mobile Market」を8月から運営開始しており,普及に向けて余念がない。

OPhoneモデルに他事業者も追随?

 もし,OPhoneの試みが中国で成功を収めれば,二つの大きな流れが出てくる。一つはAndroidの端末が大量に作られるようになること。OPhoneはAndroidに機能を追加したものなので,これを外せば“素の”Android端末になる。つまり,中国以外にもソフトを入れ替えれば輸出できる。大量に端末が出るようになれば,端末のコストは劇的に下がる。

 もう一つの流れは,Androidを各携帯電話事業者が自社用のプラットフォームとして使うという流れだ。現在,中国移動以外の通信事業者では,Android端末をグーグルのサービスをそのまま載せた形で提供しているが,一方でグーグルに牛耳られるのを恐れている。グーグルの影響力を極小化しながら安いAndroid端末を使える道が中国移動によって示されれば,これに追随する事業者が増えるだろう。

 さて,今後の中国および世界の携帯電話の台風の目になりそうなOPhoneだが,世界で成功できるプラットフォームなのだろうか。これを見極めるために日経コミュニケーションでは「OPhone徹底解剖」と題したセミナーを企画した。OPhone用OS「OMS」(open mobile system)の開発元であるBORQSによる講演など他では聞けない内容をそろえたほか,OPhoneを触って体験できるコーナーも用意する。携帯電話産業に携わる方には,ぜひ参加していただきたい。

■変更履歴
最初の小見出しで「DOV/V」と記述していましたが,「DOS/V」の誤りです。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2009/11/14 16:40]