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 「『コスト削減』はいかん」――。記者が特集趣旨の説明をするなかで、コスト削減という言葉を出した途端、それまで穏やかだった目が、鋭く刺すような視線を向けてきた。2009年9月、山田日登志PEC産業教育センター所長にインタビューしていた時のことだ。ご存じのように、山田氏はトヨタ流改善の創始者・大野耐一氏に学び、ソニーやキヤノンなど300社以上の生産現場を改善してきた「ムダ取り」と「セル生産」の大家である。

 実はこの時まで、日経情報ストラテジーの2010年1月号の特集タイトルには「コスト削減」という言葉を使うつもりでいた。そして、どのような対策を打ち出すべきなのかを探るため、2009年夏から企業や識者への取材を進めていたところだった。

 しかし、山田氏は「作業量を変えずに経費や人数を削減するようなコスト削減策を繰り出せば、現場が疲弊する一方だ」と釘を刺した。現場が付加価値を生み出す余裕をなくし、ますます競争力を低下させると警鐘を鳴らしたのだ。厳しい経営環境が続くなか、応急措置として実施した一律的なコストカット策は早くも効果が一巡し、さらなる対策が打ち出されつつある。IT予算を削減するなどのさらなる厳しいコストカットを経営陣から要請され、頭を痛めている読者もいることだろう。

 山田氏は「付加価値を生まない作業を取り除くムダ取りこそ経営課題として取り組むべきだ」と提唱する。ムダ取りは単なるコストカットとは違い、余分な工程や作業を無くして、付加価値を作り出す余裕をもたらすからだ。実際、山田氏に学び、現在も経営トップ自らがムダ取りを推進するスタンレー電気は、直近の10年間、利益率で競合他社に負けたことがないという。

「明確な目標設定と褒美で現場は目の色を変える」

 では、ムダ取りを成功させる秘訣は何だろうか。山田氏は「事業トップは、現場の従業員が分かりやすい明確な目標を立て、それを達成できた際にはきちんと褒美を出しなさい」と指導している。「目標を明確にして賞をあげたり、ちょっと給料を上げたりするだけで現場は目の色が変わる」(山田氏)

 本誌が取材したムダ取り事例を、山田氏の視点で見直すと、確かにポイントを同じくする取り組みが目につく。例えば合成ゴム大手の日本ゼオンは、古河直純代表取締役社長が先頭に立って、報酬制度と連動させながらムダ取りを社内に浸透させている。優れたムダ取りに成功した現場作業者には、毎月2000~4000円の報奨金を2年間継続して支払う。さらに優秀事例の発表会には古河社長ら経営陣が顔をそろえ、現場の活動を褒めたたえる。

 目標が明確になり、達成状況が日々見えるようになれば、ムダ取りの工夫が生まれやすくなる。タニタ(東京都板橋区)は2009年7月にムダな印刷を減らす目標を設定。取り組み開始から3カ月間で約75万円のムダな印刷費を減らし、当初見込みの3倍もの成果を上げた。ICカード社員証を使った認証システムを複合機に取りつけて、社員ごとの日々の印刷枚数を見える化したのが現場の意識改革につながった。

 日本ゼオンやタニタも含め、今回は50ものムダ取り事例を記事化し、11月29日に発売する2010年1月号特集「ムダ取りの秘訣50事例集」に掲載した。ぜひご覧いただきたい。