グローバルなITベンダーは成長が義務付けられている。投資家が高い成長性に期待して投資しているから、当たり前である。利益を上げ続けても売上高が伸びなければ、投資家の失望を呼び株価は下落、たちまち買収ターゲットとなる・・・。なぜ、今さらそんな話を書くかというと、クラウド時代における彼らの振る舞いも当然、そんな投資家の縛りに規定されるからである。その影響は、成長を全く期待されない草食系の日本のITサービス会社にも及ぶ。
クラウド・コンピューティングの勃興は、グローバルITベンダーにとって頭の痛い問題である。「製品が売れなくなるのだから、そんなの当たり前でしょ」と言わないでほしい。より根本的な問題は、製品販売からサービスへという綺麗な絵を描いても、投資家を納得させられないということだ。なんせサービスは、一度に大きな売り上げにならないし、利益率も高くない。ビジネスモデルの転換を見事に果たしたところで、成長の鈍化は避けられない・・・。
ということで、グローバルITベンダーは別の2つの手口でクラウド時代を乗り切ろうとする。それは“垂直統合”と“水平拡張”である。垂直統合は最近、お馴染みのやつで、旧来の水平分業を否定して、ハードからミドルウエア、アプリケーションまで自前で提供しようとする動き。その最も華々しいのがM&Aで、オラクルが仕掛けたサン・マイクロシステムズの買収がその代表例だ。
これは売り上げ拡大の特効薬だが、残念ながらIT業界には大きなディールはあと僅かしか残されていない。せいぜい2~3案件といったところか。「で、どうするんだ」と投資家に突っ込まれたグローバルITベンダーは、「顧客内でのシェア拡大」などと当たり前ことを言う。ただ、この顧客シェアの拡大はかなりのクセ者である。ライバルと血みどろのリプレース合戦をしても、取った、取られたで、全体としては大きな変動がないからだ。
そうすると・・・まず実は身も蓋もなく言うと、垂直統合も顧客シェア拡大の一環である。そして、垂直統合するのは、ハードやミドルウエア、アプリケーションだけでなく、クラウド&従来型のサービスも含まれる。つまり、顧客シェア拡大に向けたグローバルITベンダーの攻勢は、いわゆるパートナー企業の取り分にも向けられることになる。
もちろん、突然パートナー企業のシェアを奪うことはないだろうが、特に大手顧客に対するパートナーのビジネスが、グローバルITベンダーによるサービスに置き換わっていくことは避けがたいだろう。こうしたトレンドは日本コンピュータ・メーカーも気付いていて、「取られる前に」とばかり、最近では顧客シェアの総取りを仕掛けているらしい。要は、大手顧客に対するアグレッシブな値引きである。
ということで、特定の顧客に対するビジネスで生き残れるかというサバイバル・ゲームが激しくなる。一応肉食系の日本のメーカーはともかく、草食系のITサービス会社は弾き飛ばされてしまう恐れがある。もちろん重要顧客でのシェア維持に頑張らなければならないが、限られたパイの中でだけ争っていても先は見えない。自らのマーケットを新しい分野に広げていかなければならないだろう。
これは新規顧客開拓の話ではない。新規顧客とは、他社が熾烈なサバイバル・ゲームを繰り広げている戦場だ。あえなく討ち死となるのは必定。で、水平拡張の話である。これはグローバルITベンダーの成長性の確保に向けた二つめの手口だが、企業以外の分野、家庭や社会インフラ分野などにマーケットを拡張することを言う。企業情報システムに限られなければ、ITのマーケットは無限に可能性が広がる。特にクラウドサービスとの親和性は、こうした分野の方がはるかに高い。
問題は、ITベンダーの経営者にそうして分野に進出する覇気があるかどうかである。グローバルITベンダーや日本のメーカーはともかく、囲いの中でノンビリと草を食んでいたITサービス会社の経営者はどうだろうか。少なくとも、その必要性については、彼らも随分前から気付いていたはずなのだが。