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 この前、ある事情でSaaSの商用サービスを調べた。3時間ほどネットで調べただけだったが、たちまち150種類ほどのサービスが見つかった。もちろん玉石混交だが、実数はいったいいくつあるのだろうか。それなのに大手企業の情報システム部門の人と話をすると、「SaaSなんてほとんど知らない」との答えが帰ってくる。「これって、どういうこと」と考えていたら、以前会った米国のアナリストが「米国で大問題になりつつある」と言っていた話を思い出した。

 米国で問題になりつつあるのは、ITガバナンスに関するものだ。米国企業では、利用部門がSaaSを勝手に導入してしまうことが、情報システム部門を悩ましているのだという。情報セキュリティ上で危うい事態だし、各利用部門が独自の判断でサービスを選定するものだから、SFAひとつとっても部門ごとに異なるサービスを導入していたりする。なんとかして情報システム部門がそうした動きを統制しないと大変なことになる、そんな話だった。

 これには、「へぇ、日本企業に比べガバナンスがはるかに効いているはずの米国企業でも、そんな状態なんだ」とかなり驚いた。では、日本企業の場合はどうか。当然SaaSが普及すれば、もっと大変なことになる。じゃあ、今はSaaSが全く普及していないのかと言うと、そうではあるまい。冒頭に挙げたように、既に相当の数のサービスが提供されており、個々のサービスはそんなに売れていなくても、全くダメということはないはずだ。

 それなのに、多くの企業の情報システム部門は、SaaSの商用サービスをほとんど知らないという。これはITベンダーから言うと答えは簡単で、皆せっせと利用部門に売り込んでいるのだ。日本のユーザー企業も、まさに米国企業の情報システム部門の悩みと同じ状況になりつつある。しかも、そうした状況を把握していない分、日本企業の方がはるかに深刻である。

 これだけ「クラウド」が話題になっているのだから、日本でもSaaSを導入する企業はどんどん増える。このままでは、Google Appsなんかを情報システム部門主導で全社導入するような企業は氷山の一角で、大半は利用部門の勝手導入になるだろう。なんせ、行き過ぎたエンドユーザー・コンピューティングが問題になった頃に比べ、今のSaaSの導入なら、利用部門にはITの知識はほとんど要らない。しかも、料金は安くIT関連以外の予算を使って導入できるのだ。

 そう言えば、ユーザー企業はプライベート・クラウドの構築に対する関心も高い。その本質は仮想化技術を使ったITインフラ統合だが、サーバーやストレージなどの効率利用だけでなく、システムの“サイロ化”を解消しようという意味もある。でも、SaaSなどのパブリック・クラウドの勝手導入が進めば、顧客情報などの重要情報が社外の複数のサイロにばら撒かれることになる。クラウドの導入によって、サイロ化の解消と共に新たなサイロ化が進む。これもうマンガ的な事態だ。

 まあITベンダー側から言えば、「買ってくれるのなら、そんなこと気にしなくてもいいじゃん」ということになるかもしれない。だが、そうも言っていられなくなるだろう。利用部門がSaaSとして使っているアプリケーションを、情報システム部門が自社システムにしようとした際、つまりITベンダーにとってはSI案件となる場合、はたして利用部門の了解を取り付けられるだろうか。また、取り付けたとしても、いろんなSaaSサービスに格納されたデータを、うまく統合することができるのだろうか。

 さらに、SIの価格の“正当性”も問われることになる。一人当たり月額数千円で問題なく利用できていたのに、自社システムになった途端、「一人当たり数万円を配賦します」では当然、利用部門の納得は得られない。つまりSaaSの無原則な普及は、SI料金の更なるデフレを引き起こす。やはりITベンダーは、SaaS/クラウドに関して顧客企業の情報システム部門と情報交換を頻繁に行い、クラウド時代のITガバナンス構築の手助けをしたほうがよいだろう。