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 年が改まって、ITベンダーの経営トップが盛んに語るのは、「クラウド」と「グローバル化」についてである。クラウドについて私もさんざん書いてきたので、今回は触れない。今回話題にしたいのは、グローバル化の話。もう少し言うと、グローバル化するために不可欠な「オンリー・イン・ジャパン」を、日本のITベンダーは持っているかについてである。

 まず、この「オンリー・イン・ジャパン」だが、アニメやマンガなどサブカルチャーも含めた日本文化に対して、主に外国人たちが口にする言葉だ。ほとんどの場合、「Only in Japan(日本にだけしかない)」と尊敬、あるいは驚きの意味合いで肯定的に使われる。日本のエスタブリッシュメントが日本の衰退を嘆く中で、アニメやマンガ、そしてストリートファッションなど日本文化を身にまとった“商品”は、今や世界で圧倒的な競争力を持つに至った。

 この話題を続けていると、別の話になってしまうので、ITベンダーのグローバル化の話に戻す。ただ、ITベンダーのグローバル化を語る場合も、そのタネとなる「オンリー・イン・ジャパン」が不可欠である。簡単に言えば「独自の突出した強み」となるが、まさに企業や従業員、そして製品/サービスのDNAに根付いているような強みである。

 企業がグローバル化する際にそんな「オンリー・イン・ジャパン」が必要なのは、考えるまでもなく当たり前のことである。グローバル化とは、新しい市場に新規参入することだ。相手から言えば、新参者である。何の独自性も強みもない異国の企業を、現地の企業は相手にしてくれないのは明らかである。だから、これまで日本のITベンダーのグローバル化とは、現地の企業をM&Aすることか、顧客である日本の大手企業の海外進出について行くことであった。

 もちろん、これが悪いとは言わない。だけど、M&Aには莫大な資金と買収後のマネジメント能力が必要だ。これは、大手ITベンダーですら限定的にしか取り得ない戦略だ。また、日本の顧客の後をついて行くだけでは、顧客のグローバル化が進めば進むほど、既に世界中にリソースを持つ米国のITベンダーとの競合面で不利になる。

 だから、「オンリー・イン・ジャパン」、独自の突出した強みが、これからの日本のITベンダーのグローバル化に必要となるだろう。では、ITベンダーにとっての「オンリー・イン・ジャパン」とは・・・こう書くと、ITベンダー、特にハードを持たないSIerなどのITサービス会社の人からは、「無理、無理、うちにはそんな独自の突出した強みなんて無いもの」という声が聞こえてきそうだ。でも、本当にそうか。

 例えば、スクラッチでのシステム開発力。これはおそらく「オンリー・イン・ジャパン」。過去にはいろいろと失敗してきたが、これだけのスクラッチ開発の能力、つまり、異常とも言える顧客の要望を最大限に聞き入れてシステムを作る力は、日本のITベンダーのユニークな突出した強みのはずだ。欧米のITベンダーはERPという汎用のシステムを顧客企業に適用するだけで、顧客の独自プロセスは顧客自身が作るからである。

 問題は、日本のITベンダー独自の突出した強みを生かせる場が世界にあるかだが、まあ欧米ではお呼びじゃないだろう。だが、これからIT化が進む新興国ではどうか。大半の業務は欧米標準のERPを導入することで何とかなるだろうが、独自の業務プロセスは誰がシステム化するのか。新興国の企業は強い情報システム部門をまだ持っていないはずだから、こうしたニーズに日本のITベンダーの能力が生かせるかもしれない。

 もちろん、これは仮説にすぎない。だが、日本の企業文化に根ざして独自の進化を遂げた能力を、外に向けて使わない手はないと思う。独自性を日本国内だけに閉じ込め続けるならば、それは「ガラパゴス化」であるが、世界に押し出していくならば「オンリー・イン・ジャパン」である。

 蛇足気味だが、最後に一つのエピソードを書いておく。もう15年以上前のことだが、私は日本の某コンピュータメーカーの研究所に勤務する米国人と親しくなった。その彼が退職し米国に帰るとのことなので、会いに行って理由を聞いた。

 彼いわく「日本人の研究者のオリジナリティは凄い。その研究成果を生かしてマーケティングすれば、世界に通じるものができる。だけど、この会社のマネジメントは最悪だ。せっかくオリジナリティを台無しにしている。ほとほと愛想が尽きたよ」。その流暢な日本語を思い出しながら、日本のITベンダーのグローバル化への考察を締めくくることにする。