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 日本を代表する企業、トヨタ自動車のリコール問題については、様々な観点から議論が沸き起こっている。中でも、プリウスなどのABS(アンチロック・ブレーキ・システム)は、制御プログラムの不具合が原因だっただけに、IT技術者にとっても他人事ではない。国際競争力が必要な産業や社会システムを支える“コメ”の役割を担うITだが、“IT自給率”という尺度があるとすれば、日本のそれは決して十分とは言えないだろう。

自給率の低さは種々の戦略に影響する

 食糧自給率やエネルギー自給率は、農業政策やエネルギー政策のあり方を議論する際に話題になる尺度である。日本における食糧自給率は2008年度にカロリーベースで41%、エネルギーは2007年に原子力を含み17%だとされる。算出基準や輸出入量の増減などにより自給率は上下するし、必ずしも「自給率100%」が正しいわけでもない。ただ、自給率が低い、すなわち海外依存度が高いことは、種々の制約を受け、国家間の交渉や商品開発戦略などに影響する。

 そこで、IT自給率である。実際にはIT自給率という尺度も調査データもない。IT技術者の育成・確保について、高度情報通信人材育成支援センター(CeFIL)の方々と話していたときに、ふと思いついたものだ。日本のIT技術者あるいはIT産業が、自らのアイデアやスキル、技術力によって、産業や社会をどれほど支えているかを“見える化”できればというわけだ。仮想指標ではあるが、IT技術者の育成・確保のあり方を議論するきっかけになるとの期待から、あえて提示する。

 当然ながら、何を持ってIT自給率とするかは難しい。かつては、ソフトウエア製品などの輸出入額に関する統計データがあり、完全な“輸入超過”が問題視されていたが、それとて自給率としては不十分だろう(オープンシステムが当たり前になってからは、この統計も調査されなくなっている)。中国やインドなどへのオフショア発注額だけをみても、全体像にはほど遠い。

 ただ、IT自給率が調査できるとすれば、日本のその数値は相当に低い、あるいは低下傾向にあることは想像に難くない。プリウスの例にあるように、国際的な戦略商品を打ち出すにしても、そこでのソフトウエア比重が高まっていたり、携帯電話や電子マネーはもとより、環境に配慮したこれからの社会インフラを支えるためにはITが不可欠になってきていたりする現状では、看過できない状況だ。

 例えば、クラウドコンピューティングを推進するにしても、その中核技術を握れなければ、海外ベンダーなどにIT基盤の利用料を支払いながらサービスを提供・利用するしかない。電気自動車などの標準化作成においても発言力は低下する。こうした状況が不自由であることは、基本ソフトや主要ミドルウエアを海外ベンダーが押さえるオープンシステムの利活用を見ても明らかである。

 そして何よりも、グローバル競争時代にあっては、あらゆる業種においてアーキテクチャの重要性が高まってくる。米アップルのiPhoneのようなソフトウエアで成長する製品や、共通部分を土台に世界各地のニーズに合った自動車や家電製品を開発するには、アーキテクチャが不可欠になるからだ。そこでは、当初からそうした発想で成長してきたIT業界のスキルが生きてくる。