IT技術者の育成策がなおざりになっている
土地や資源の量に依存する食糧やエネルギーと違い、ITの場合、自給率を決めるのは人材だ。しかも、プログラマの実力差は10倍以上といった指摘があるように、単純に人数だけでは実態を表せない。少なくとも、IT技術者が持つスキルの高低を加味する必要がある。そのため、IT自給率を一定レベルにまで高めるには、それに十分な人材の確保・育成が欠かせない。そのこと自体は誰も否定しないものの、育成策の企画・実行は決して十分ではない。先の事業仕分けにおいても、人材育成策などは「受益者負担」を理由に計画中止に追い込まれている。CeFILの存在理由の一つもそこにある。
高度ICT人材の育成が必要なことは、主に自動車や電機分野における組み込みソフトの重要性の高まりを受けて、経団連が2005年に提言している。それが、文部科学省の「先導的ITスペシャリスト育成推進プログラム」などとして2006年度に実施された。筑波大学と九州大学を重点支援拠点とし、10年後を支える人材を育成するもので、いわゆる“トップガン”教育を実施した。
しかし、受講生の評価そのものが難しいことや、彼らを特別枠で採用することへの産業界の抵抗や、そのスキルを生かし切れるだけの体制が整備されていないことなどから、十分な成果を上げているとは評しがたい。そのプログラムも、2010年3月で終了する。経済不況も重なり、IT技術者の重点育成策は、育成手法や活用策の検討も不十分なままに投げ出される可能性すらある。
高い志をもつ目標設定が必要
筆者は、IT自給率100%を望んでいるわけではない。産業界においても最近は、総人口が多く、IT技術者の育成に熱心なインドなどに研究・開発拠点を置くなど、グローバルな視点で人材を確保・活用することが必要になっている。それだけに、海外の視点を積極的に取り入れ、日本のIT産業の構造そのものを改革する必要もある。しかし、その構造改革のためには、高い志を持った目標が必要だと思う。折しも、この2月14日には、宇宙飛行士の若田光一氏らが参加したパネルディスカッションで、有人宇宙船の是非が議論された。ジャーナリストの立花隆氏が「無人のほうが、費用面などで実現性が高い」とするのに対し、若田氏は「日本の有人宇宙船を打ち上げることが夢だ。険しいが、宇宙から帰還する能力を獲得するなど、今できることを一つ一つやっていきたい」としたという。最終的に“夢”で終わるかもしれないが、若田氏のような高い目標設定なしに、世界レベルの競争には打ち勝てないのではないか。
IT技術者の育成においても、世界の技術者と互してアーキテクチャを語れる人材が不可欠だと筆者は考える。読者のみなさんはどう考えるだろうか。
なお、CeFILはこれからの高度ICT人材の育成策のあり方を議論するためのシンポジウムを2010年3月8日に東京・港区で開催する。筑波大や九大の取り組み紹介だけでなく、公立はこだて未来大学や山口大学、愛媛大学など、独自に高度ICT人材の育成に取り組む大学なども参加するという。皆さんの意見もそこにぶつけてみてはどうだろう。