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 クラウドサービスやデータセンターを利用すると、企業ネットワークはLAN中心だったものからWANを前提としたものに変わる。ところがWANを使うと、ネットワークの遅延が増大し、システムの応答性能も大幅に低下する。日経NETWORK2010年3月号(2月28日発行)の特集「クラウド時代のネット遅延解消法」では、この影響を低減するための数々の方策を紹介している。

 特集の取材の中で興味深い話を聞いた。WAN高速化装置ベンダーである米リバーベッドテクノロジーがユーザー企業と協力して、米アマゾン・ウェブ・サービシズのクラウドサービスであるAmazon EC2との通信を高速化する実験を行っているというのだ。このユーザー企業は、誰もが知っている大手の飲料メーカーや製薬メーカーである。

 WAN高速化装置とはネットワーク機器の一つで、WANでつないだ各拠点に設置し装置間の通信を高速化する。データキャッシュやTCPトラフィックの最適化、アプリケーションプロトコルの最適化といった工夫を凝らすことで、拠点間でやりとりする手順の数やトラフィックの量を減らし、見た目のスループットを向上させるものだ。詳しい仕組みについては、特集記事をご覧いただきたい。

 装置間で有効なWAN高速化装置を、Amazon EC2でどのように利用しているかに注目してほしい。WAN高速化装置は、通常箱型のシャーシに入っているハードウエア。リバーベッドは2009年11月17日に発表し、2010年夏に出荷開始予定の「Virtual Steelhead」を使ったという(リリース関連ニュース)。

仮想アプライアンスとして稼働

 Virtual Steelheadは、仮想化ソフト上で仮想マシンとして稼働するアプライアンスである。ハードウエアではなく、ソフトウエアとして稼働するWAN高速化装置というわけだ。ユーザーが仮想化ソフトを使ってサーバー統合を行ったサーバーマシン上で、既存環境に与える影響を少なくして利用できるようにした。

 このVirtual Steelheadは、仮想化ソフトを使っているAmazon EC2にアップロードして利用できる。Amazon EC2には、VPN接続を可能にするオプション「Virtual Private Cloud」がある。これとVirtual Steelheadを組み合わせれば、遅延によるパフォーマンスの低下を抑えつつ、Amazon EC2をプライベートクラウドとして利用できることになる。

 「仮想アプライアンス版WAN高速化装置」というアイデアは、記者にはとても魅力的に見える。ところが、リバーベッド以外のベンダーは製品化に消極的だ。「障害が起こったときのサポートが難しい」。ジュニパーネットワークスの技術本部 第三技術部 テクニカル・コンサルタントの松本 裕氏はこう指摘する。

 確かに、雲の上で稼働するWAN高速化装置で発生した障害を解消するのは、物理的なハードウエアのWAN高速化装置を相手にしているときと勝手が異なる。一部のインテグレータは、「アマゾンの協力がなければ積極的に導入を勧められない」という意見だった。

 リバーベッドの日本法人でマーケティングマネージャーの伊藤 信氏は「定期的にログを提出してもらうことで運用状況を確認し、障害時にはリモートログインなどで対処できる」としている。これだけでは利用企業に不安が残る。

 そこでリバーベッドはこの問題を認識しつつ、Virtual Steelheadに続く次の手を用意している。Virtual Steelheadを使った「Cloud Steelhead」である。

時間貸しのWAN高速化装置を提供

 Cloud Steelheadとは、Virtual Steelheadを使えるクラウドサービスのことだ。リバーベッドの伊藤氏は「既にアマゾンに対して、Virtual Private CloudのようなオプションとしてVirtual Steelheadを使えるように働きかけている」という。アマゾンだけでなく、データセンターを含めたプライベートクラウドを提供する事業者にも働きかけている。日本での提供予定は明らかにしていない。

 リバーベッドと事業者が組んでCloud Steelheadを提供すれば、前述したサポートの不安面を解消しやすくなる。さらに大きなユーザーメリットも期待できる。伊藤氏は「Amazon EC2の料金体系のように、使っただけ利用料金を支払う形を予定している」というのだ。

 ハードウエアのWAN高速装置を導入する場合、最低でも数十万円の初期費用がかかる。データキャッシュやプロトコルの最適化による高速化の効果は、導入前には測りづらい。導入後に「期待ほどではなかった」というケースもゼロではないだろう。

 時間貸しで利用できるのであれば、気軽にテスト運用を行える。常時運用しないシステムでは、時間貸しのほうがコストを抑えられる可能性もある。高価なために“高根の花”と思われたWAN高速化装置がクラウドサービスで使えるようになれば、大企業だけでなく中堅・中小企業や個人も手軽に利用できるはずだ。

 リバーベッドを含めた多くのWAN高速化装置ベンダーが、対応するプロトコルを限定する、ダウンロードに特化するといった、WAN高速化装置の機能を一部制限したクライアントソフトを用意している。WAN高速化装置を導入したクラウドサービスとこのクライアントソフトを使えば、個人でも手軽にWAN高速化を体験できるのではないか。

 リバーベッドは現状では、「クライアントソフトはプライベートクラウド用。パブリック用ではない」というスタンスをとっている。しかしWAN高速化装置を使ったクラウドサービスが増えれば、パブリック用途に応用するケースも増えるだろう。このとき、携帯電話用(特にiPhone)のクライアントソフトを公開すれば、WAN高速化装置を使ったクラウドサービスが爆発的に普及するんじゃないか。筆者はこう思っている。