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 日本にも巨大クラウドサービスが必要だ。最近そんな議論をよく聞くようになった。民間企業だけでは無理なんで国策として・・・クラウドを民主党政権のIT戦略の目玉にしようという話も聞く。仮にグーグルやアマゾン対抗のサービスを国家プロジェクトでやろうというなら、噴飯モノだ。そもそも“グーグル的な国産クラウドサービス”が必要か否か、よく考えてみる必要がある。

 ITベンダーのクラウド関連ビジネスを整理すると、プライベートクラウド構築サービス、プライベートクラウド運用サービス、そしてパブリッククラウドサービスに3分類できる。プライベートクラウド構築サービスと運用サービスは、従来のSIとアウトソーシングと変わらないから話は簡単。仮想化技術まわりのノウハウを習得すればなんとかなる。問題はパブリッククラウドサービスで、グーグルやアマゾンの存在感があまりにも大きいから、みんな「うーん」となる。

 資本集約と知識集約の面でグーグルやアマゾンに圧倒的な差をつけられた今となっては、その後をまともに追いかけることができるのはマイクロソフトぐらい。日本企業がキャッチアップできる可能は、通信事業者には多少残っているが、ITベンダーの場合はほぼ絶望的。仕方がないから、「安心・安全」を前面に出した“高級サービス”で差異化しようとするが、米国勢のパブリッククラウドサービスもどんどん“高級化”しており、時間の経過と共に国産のサービスが追い込まれていく可能性は高い。

 まあ、そんなわけだから、国家プロジェクトでパブリッククラウドサービスの基盤を作ろうという話が出てくるは、ある意味当然。「将来の重要な社会インフラを米国勢に牛耳られては大変」という理屈があるからだ。しかし国策で、自由主義経済の権化のようなクラウドサービスに対抗しようというのは土台無理な話。以前、「検索サービスという重要インフラを米国勢に牛耳られては大変」との危機感から出発した国策プロジェクトがあったが、今回もその二の舞となってしまうだろう。

 そもそも、グーグルやアマゾンのような巨大クラウドサービス、あるいはその事業者が国産である必要があるのだろうか。よく考えれば考えるほど「必要無し」と思えてくる。まずBtoC分野では、そうした米国勢のインフラを苗床に「オンリー・イン・ジャパン」のコンテンツビジネスを生み出せばよい。そして企業向けでは「伸び縮み自由なシステム」を実現するツールとして、米国勢のインフラを活用すればよい。

 伸び縮み自由なシステムの話はこの前に書いたが、要はビジネスの変動に合わせて拡張も縮退も容易なシステムのことだ。これからの企業情報システムは、仮想化からプライベートクラウドへと進み、効率性と柔軟性を徹底的に追求したものなるはずだ。大企業ならコアシステムは自社で運用し、それ以外のシステムはITベンダーのプライベートクラウド運用サービスにアウトソーシングする。そして、経済環境やビジネスの状況に合わせて変動するITリソースの差分は、パブリッククラウドサービスでテンポラリーに調達するようになるだろう。

 だから、企業向けにパブリッククラウドサービスを提供するITベンダーは、単に低コストのサービスを提供するだけでは済まず、需要の変動というリスクを背負い込む必要が出てくる。しかし、そんなリスクを背負い込めるのは、統計多重効果を引き出せるグーグルやアマゾンのような巨大事業者だけだ。日本のITベンダーとしては「グーグル対抗」といった夢を見ず、既存の顧客をプライベートクラウド構築サービスや運用サービスでガッチリと囲い込み、ITリソースの需要変動に合わせて米国勢のサービスを二次活用すればよい。

 かなり単純化したが、かくして巨大なパブリッククラウドサービスが何も国産である必要は無いということになる。今後、米国勢のサービスが日本企業の多くのITニーズを巻き取っていく可能性があるが、情報システムのすべてがパブリッククラウドに置き換わることはあり得ないので、致命的なことにはなるまい。従って、“米国勢に対抗する国策クラウド”も不要だ。もちろん企業のクラウド活用を加速する政策的インセンティブなら「あり」だと思うが。