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 主なITベンダーの2010年3月期決算が出そろった。当然と言えば当然だが、一部の大手などを除いて業績は一様に冴えない。まだ危なっかしいが景気が回復してきたので、今期に期待といきたいところが、国内市場は横ばいか、良くて微増の予想が大半だ。「このままではIT産業は構造不況に陥る」と、ある大手ITベンダーのトップがつぶやいていたが、まさに季節は変わり目だ。

 これまで何度か、“トンネルを抜けた後に見える景色”について予想を書いてきたが、その景色がいよいよ目前に広がろうとしている。既にはっきりしているのはSI、特に基幹系システムの構築という、今まで大多数のITベンダーにとって金城湯池だった市場がどんどん縮小するだろうってことだ。長期的には日本経済が縮む中、ユーザー企業はこの領域に大金を投じなくなる。ITベンダーのトップから「構造不況」発言が出るのも、そんな問題意識からだ。

 実際に今期、ユーザー企業がIT投資の復活を決意しても、基幹系システムの再構築には慎重なはずだ。だから、ITベンダーの当初の皮算用ほどは今期、売り上げは伸びない。そんな予感がITベンダーの今期予想を楽観視できないものにする。

 賢明なユーザー企業なら、付加価値の無い基幹系システムについてはITインフラ整備の観点から慎重に対処するだろう。数年をかけてプライベートクラウド化を進めるか、場合によってはパブリッククラウドの活用に踏み切るか、いずれにしても投資額や費用は切り詰めていくはずだ。お金をかけるべきITは、バックヤードではなくビジネスの最前線にあるからだ。

 では、ITベンダーが採り得る生き残り戦略はどうか。とりあえず見えているのは、(1)規模拡大による残存者利益狙い、(2)クラウド事業の収益化、(3)新天地を求めてのグローバル展開、(4)“元ユーザー企業”との協業----の四つがある。

 このうち(1)(2)(3)は、何度も書いてきた。規模拡大による残存者利益狙いは、国内のライバルをM&Aして規模を拡大し、大手ユーザー企業からの受注を増やし、安定した収益の確保を狙うというものだ。ライバル企業をM&Aなどで消去すれば、同時にユーザー企業との力関係の改善も期待できる。クラウド事業の収益化と新天地を求めてのグローバル展開は言わずもがなである。

 さて、残りの“元ユーザー企業”との協業だが、これには少し解説がいる。と言っても、理屈は簡単だ。ユーザー企業は今後ますます、ITをビジネスの最前線で活用するようになる。そして、ITベンダーに利益とリスクのシェアを求めるようになる。こうなると、ユーザー企業はもはや顧客ではなく、ビジネスパートナーだ。つまりITベンダーは、パートナーとなった“元ユーザー企業”と組み、共に新たなビジネスを開拓しようというわけだ。

 実は、この「“元ユーザー企業”との協業」戦略も目新しいものではない。1990年代後半から2000年代の初頭に、さんざん語られたことだ。eコマースなどにチャレンジするユーザー企業は、ネットビジネスのパートナーになってくれるITベンダーを求めていた。だが、ITベンダーの中にはそうした役割を志向した企業もあったものの、結局リスクを取り切れず断念。楽天などの“新たなIT企業”がその役割を担い、既存のITベンダーは用済みとなった。

 さて今、再びこうした協業戦略の季節となった。何の話かと言うと、スマートグリッド(次世代電力網)などITの活用が前提の社会インフラなどのビジネスのことだ。電力などエネルギー産業をはじめ、自動車・鉄道、医療などのインフラビジネスが、ITによって組み変わろうとしている。

 ITベンダーとしては、こうしたインフラ産業の企業と組んで新たなビジネスを創り上げたい。「お客様におっしゃっていただければ、何でも作ります」ではなく、新たなビジネスを創るパートナーとなるのだ。そして、新たな社会インフラを国内だけでなく、海外にも輸出する。そんなことを考えたい。

 「果たして、その実現可能性は・・・」だが、幸い、既存のITベンダーの“先生”であるIBMが、Smarter Planet 構想なんかを打ち出してくれたものだから、日本の大手ITベンダーは一応その気になっている。とにかく、こうした新社会インフラだけでなく、ITを使った新たなビジネスを“元ユーザー企業”と共に創造するということは、間違いなく重要な生き残り戦略になってくるはずだ。

 さて、この戦略をはじめ四つの戦略はすべて、リスクを取る覚悟が必要だ。えっ、企業なのだから当たり前だって。確かに当たり前だが、今まではリスクを取らなくて済んだ多くのITベンダーには、そのハードルは高い。だが、季節の変わり目だ。変わろうとする覚悟が今ほど必要な時はない。