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 筆者は日本IBMを卒業後、IT企業やユーザー企業の多くの方々とお会いした。そして筆者が約30年間在籍していた日本IBMの“営業・SEの育成の方法や制度”について話すと、多くの方が興味深く聞かれた。日本IBMという外資企業の営業・SEの育成のやり方や人事制度に関心があったのだと思う。

 確かに、お会いした方々と同世代の日本IBMの営業やSEは技術力があったし、提案内容も優れプレゼンもうまかった。また、彼ら彼女らの多くは日本IBM卒業後、IT企業をはじめいろんな企業でその力を生かして活躍している。そんな状況を見て、お会いした方々はきっと日本IBMには社員を育てる“何か”があると思われたのだと思う。筆者自身も日本IBM卒業後、日本企業で働き、多くのIT企業の方々と営業・SEの育成方法について話をした。そんな経験から、確かに日本IBMには日本企業に比べて営業・SEを育てる上で特筆すべき点が何点かあることを知った。

 そこで今回はその中で特に“日本IBMのこのあたりが営業・SEを育てたのではないだろうか”と筆者が思う点を紹介したい。なお、これらについて現在の日本IBMで行われているかどうかは確認はしていないので、その点はご了承願いたい。

 日本IBMはご存知のように外資企業である。日本企業の方の中には「外資企業だからビジネスに厳しいし社員の競争も激しい。そして給与格差も大きいから人が育つのだ。」とか「社員が高学歴だから当然だ」などと思っている人が少なくないと思う。

 だが、外資企業と日本企業の両方の管理職を経験した筆者から見ると、それは当たらない。ビジネスに厳しい会社は日本の民間企業も同じだし、どこの企業でも社員の競争や給与の格差はある。筆者が知る限り、それらの点において日本IBMが特に変わっているとは思えない。日本企業の中には日本IBMよりも給与格差が大きいところもあるし、また日本IBMより有名大学出身者は多いメーカーもある。

 ただ、日本IBMには日本企業にない“人に関する”いろんな仕組みがあり、社員が育つ環境がある。以下、その主な事項について説明したい。

試験を合格しないと営業・SEになれない

 1点目は、営業やSEを目指す新入社員は卒業試験を合格しないと営業やSEになれないということだ。どこの企業でも新入社員研修を行うが、日本IBMも同様である。最初の集合研修でコンピュータの仕組みや製品の詳細、提案書の作り方、システム開発の手法の基本を教える。そして集合研修の後、新入社員は所属部門に戻り、OJTを行なう。そこでは、先輩の仕事を手伝うと同時に、彼ら彼女らは卒業試験の準備を行なう。その卒業試験の内容だが、それはお客様にシステム開発の提案を行い、契約書をもらうという内容である。

 そのために新入社員は所属部門の実際の提案書を勉強して、先輩の指導を受けながら試験用の提案書を作る。それを先輩や上司などの前でプレゼンし、諸々の指導を受ける。この試験準備を通じて、提案書の作り方や資料の作り方、システムの考え方、顧客のメリットの考え方、システム開発の考え方、プレゼンのやり方、質問への対応方法、あいさつの仕方や名刺の出し方などを学ぶ。そして卒業試験に臨む。

 試験ではベテラン社員が擬似お客様になって新入社員に応対する。新入社員はお客様に提案書を提出し、プレゼンを行い、お客様から出される技術やビジネス関連のいやらしい質問や要望に対応する。その場で対応できなければ宿題となる。そして数日間悪戦苦闘しながら、お客様に納得してもらって契約書をもらう。だいたいこんなやり方である。新入社員はこれを卒業しないと営業やSEになれない。不合格者は他の職種に回される。

 彼ら彼女らは学校の入試以来はじめて一生懸命勉強したという。徹夜も辞さず準備をし、先輩や上司なども組織を挙げて指導・応援する、レビューやプレゼンのリハーサルを何回もやる。上司や先輩には合格させないと組織の恥だという雰囲気もある。日本IBMの営業やSEはこの卒業試験を含めた新入社員研修で、日本IBMの営業・SEの基本・基礎を身に付けてきた。このやり方が日本IBMでは長く続いており、社長も役員もこの試験を受けている。ある意味で日本IBMの伝統である。