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 少し前の話題になるが、5月上旬の週末に開催された「日本のICT産業の再発展」をテーマにしたシンポジウムに参加した。電子情報通信学会が主催したもので、ICT産業の凋落に危機感を持った人たちが集まった。「ICT業界は、国際的な存在感の欠如、ベンチャー企業の不在、情報通信系学科の学生人気の落ち込み、企業の学会離れなど課題が山積している」というのが、5月まで同学会の会長を務めた青山友紀教授による冒頭の問題提起だ。

 基調講演に登場した内藤正光総務副大臣に続き、元三菱電機社長の野間口有・産業技術総合研究所理事長、宇治則孝・NTT副社長、インベストバンクの許斐勝夫(このみまさお)・許斐社長、関口和一・日本経済新聞編集委員兼論説委員、西尾章治郎・大阪大学副学長がそれぞれ産業界、ジャーナリスト、大学を代表して登壇した。石井裕・MITメディアラボラトリー副所長は、青山氏との対談によるビデオ録画で参加した。各界を代表する豪華な顔ぶれである。

 それだけに発表や議論は興味深いものが多かった。中でも海外事情をよく知る許斐氏の分析は、簡潔に日本の課題を押さえているように思えた。

「電機離れ」と問題は同じ

 許斐氏は日本の課題として三つ挙げた。第1の課題は、西欧に追い付き、追い越すという目標を一部で達成した後で次の目標を定められていないことという。

 2番目の課題は、世界中が資本主義に塗り替えられて動いている認識が足りないこと。資本主義では利潤の実現が求められ、達成できないときには責任を問われる。ところが今の日本の社会は、本来の資本主義を頑なに拒んでいるという指摘である。「ゲームのルールを無視した体制では、勝ち抜けるとは思えない」と手厳しい。

 3番目の課題は、実用化につながる革新技術が大企業から出なくなったこと。許斐氏は、創造力や知的能力のある人が組織を離れており、外部資本と結びついて革新的な技術を実現しているとする。

 これからは「個人の時代」だという主張は、別のインタビューでも何度か聞いたことがある。確かに、コンプライアンスで縛られルーチンワークに追われる企業人は、寝食を忘れて一つのことに没頭できる個人に比べて勝ち目は薄いのではないかと感じることが多い。

 各人の分析や議論を興味深く聞きながら、筆者は既視感を覚えていた。日経エレクトロニクスの記者だった2006年に「電機離れ」をテーマにした特集記事を執筆したことがあるからだ(関連記事)。

 今回の議論の多くは、当時の「電機」を「情報通信」に置き換えたもののように筆者には思えた。ただ、西尾氏によれば「理工系離れは、実は1970年代から既にあった」という。当時は「これは大きな問題を見つけた」と張り切って書いた自分の記事も、実は多くの人には既視感があったのかもしれない。

「言いっぱなしでいいじゃない」

 危機感を共有するための記事を執筆した後は、打開策や解決に向けた実践的な活動に注目している。例えば、IPA(情報処理推進機構)が「未踏ソフトウェア創造事業」で選出した「スーパークリエータ」と呼ぶ開発者を、米国のシリコンバレーに送り込むという試みはとても面白いと思った(関連記事)。

 現地の開発者との交流を通じて、実際に米国進出や米国での製品販売を始めた開発者もいるという。沖縄県の民間企業が協力してシリコンバレーに学生を派遣したのも、同じような狙いがある(関連記事)。

 そんな視点で見ると、今回の討論でも「これは面白い」と思える取り組みや分析がいくつかあった。

 例えば西尾氏は、関西の情報系9大学院と4民間企業の連携活動を紹介、「学学連携」による異文化のコミュニケーションを通じて、企業の即戦力となる学生を育てようとする取り組みを取り上げた。コミュニケーション能力を磨いた卒業生は、各界で活躍しているという。

 米国の大学に籍を置く石井氏は、国際競争力がある米国企業には「ダイバーシティ(多様性)がある」と分析する。米国では女性やマイノリティー(少数民族や人種)、大企業での経験のある人を雇う努力をしているが、日本にはその多様性がない。その結果、日本企業は世界の市場の多様性を理解できず、世界で戦えないという指摘だ。

 石井氏は「国を開いたものにして多様性を高め、異なる価値観を持つ人が応用を議論する場を作るべき」と提案する。

 以上の共通項は「異文化の交流」である。筆者は、考えや背景が違う人が集まることで、新しいものが生まれやすくなると信じている。シンポジウムでは「科学技術分野の予算を増やしてほしい」という少なからず意見が出た。予算を投入するのであれば、一定額を異文化交流や多様性を促進するような活動に振り向けて欲しい。

 シンポジウムの最後の質疑応答では、面白いやり取りがあった。来場者の一人が「登壇者に今日の総括をしてほしい」と提案したところ、海外での取材経験が多い関口氏が「言いっぱなしでいいじゃない」と返したのである。

 結論は誰かにまとめてもらうものではなく、各人が考える。これが欧米の流儀だ。参加者の中には、考えを改めた人もいたことだろう。異なる意見がぶつかる機会は、やはり重要だと感じた。