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 2010年6月8日午前2時。夜更けにもかかわらず、筆者のツイッターのタイムラインでは多くの人のつぶやきがどんどん流れている。大勢の人たちが、米アップルのスティーブ・ジョブズCEO(最高経営責任者)のプレゼンテーションをリアルタイムで見たい、一刻も早く情報を知りたいと、眠い目をこすりながら待っているのだ。

 この日、ジョブズはアップルの世界開発者会議(WWDC 2010)の基調講演に登場し、iPhone 4を発表した。アップル側からリアルタイムでの動画中継はなかったが、サンフランシスコの会場に駆けつけた開発者の人たちが、個人的に動画中継したり、ツイッターで実況したり、米国の複数のメディアがほぼ1分おきにWebページで写真とテキストでジョブズのプレゼンを実況したりするのを見ながら、みんなが興奮している。

製品の魅力が何倍にも増す

 スティーブ・ジョブズが登場しただけで会場は大歓声。iPhone 4の薄さや高解像度のディスプレイなどを紹介するたびに、会場がわき、ツイッター上では驚きのコメントがあふれていた。

 この時に多くの人たちが興奮したのは、もちろんiPhone 4の製品自体に魅力があったからだ。加えて、ジョブズのプレゼンによってその魅力が何倍にも増したことは間違いない。仮にジョブズではなく、誰か他の人がiPhone 4の機能を淡々と発表していたら、今ほど予約は殺到していなかったのではないだろうか。

 ジョブズはステージに堂々と立ち、観客に向けて楽しそうに語りかける。

「2010年は、初代 iPhone以来最大の進歩になる。iPhone 4を紹介しよう」
「iPhone 4の厚さは9.3ミリしかない。iPhone 3GSよりも24%薄い。世界で一番薄いスマートフォン」
「我々が作ってきた中でも、もっとも美しい製品の一つだ」

 その言葉は誰にでもわかりやすく、短くて歯切れよく、記憶に残りやすい。聴衆はジョブズの話にどんどん引き込まれていくのだ。

ぼそぼそと下を向いて発表する日本人経営者

 スティーブ・ジョブズにあって、多くの日本人経営者に足りないものは何か。筆者はプレゼン力だと考えている。日本の経営者でプレゼンがうまいと言われる人はソフトバンクの孫正義社長など何人かいるものの、全体的には非常に少ない。

 中には、本当にがっかりするようなプレゼンをする経営者もいる。筆者は10年ほど前、ジョブズの対極と言えるような残念なプレゼンを目撃した。“通信のオリンピック”と呼ばれる「TELECOM」というスイス・ジュネーブで開催されたイベントでのことだ。

 世界の有力通信機器メーカーや通信事業者の経営者が勢ぞろいする中、日本の有力メーカーの社長が登場した。その社長は、机の上に置いた英語のメモに書かれた製品の機能をひたすら棒読み。一向に前を向かないため、シャッターを切れずに業を煮やした外国人のカメラマンが、嫌味のように下を向いているこの社長の真下にカメラを置いて撮影していたのが印象的だった。

 慣れない英語のプレゼンで緊張していたのかもしれない。外国人記者を前にした世界的なイベントで間違えてはいけないと、慎重になっていたのかもしれない。理由はあったにせよ、この日本人社長の姿は際立って悪い印象を与えていた。ジョブズと同様、プレゼンの名手とされるシスコシステムズのジョン・チェンバーズCEOなどの魅力的なプレゼンが続くイベントだったこともあり、なおさら悪い意味で目立ってしまったのである。

ジョブズのようなプレゼンは誰でもできる!

 この社長ほどではないとしても、日本人はプレゼン下手と言われることが多い。しかし、日本人だから下手でも仕方がない、才能がないから仕方がないと思い込んでしまうのはもったいない。プレゼン力は向上できるからだ。

 「ジョブズのテクニックは分析し、身につけることが可能」。筆者が編集を担当した『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン―人々を惹きつける18の法則』の著者、カーマイン・ガロ氏は、こう強調する。

 本書では、ジョブズがプレゼンでどんな工夫をしているのかを詳しく分析し、18の法則として体系的にまとめている。「数字をドレスアップする」「ツイッターのようなヘッドラインを作る」「敵役を導入する」「簡単そうに見せる」---といった具合である。ジョブズによる過去のプレゼンの実例を挙げながら説明していくので、非常に説得力がある。

 ガロ氏は、何より練習が重要だと言う。実際、ジョブズはあれほどの才能があっても努力を重ねているそうだ。ガロ氏は、Mac World 2001での5分間のデモでジョブズがリハーサルに丸2日をかけ、裏方のチームは準備に数百時間をかけたと記している。

 以前アップルに在籍してジョブズのプレゼンを生で長年見続けてきた外村仁氏も、「一番大事なことは練習。練習と本番を繰り返して上達すると、人はそれを才能と呼ぶ」と本書の解説で記している。

 外村氏は日米のベンチャーのアドバイザーを兼務しており、ベンチャーの人たちのプレゼンを見る機会が多い。その経験から、「技術や製品・サービスなどの中身があるのに、伝えきれていない日本人が多いのはもったいない」と話す。本書を担当した編集者としては、多くの方に本書をご覧いただいてプレゼン力をアップしていただけたらうれしい。

 なお、『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』発行記念として、外村仁氏とITジャーナリストの林信行氏が、7月15日に丸善丸の内本店でトークショーを開催します(概要はこちら)。伝説のプレゼンを紹介しながら、なぜジョブズ氏が人々を惹きつけるのか、なぜ魅力的な製品を作れるのかを紹介しますので、ぜひお越しください。