PR

 クラウドコンピューティングへのパラダイムシフトも、そろそろ最終段階に入ってきた。ITベンダーの中で唯一“クラウド嫌い”だったオラクルも、最近は「クラウド」を連呼するようになった。まだ、具体的なクラウド事業戦略は見えないが、9月のOracle OpenWorldあたりで大々的に何かを言うと思う。そして、それを期待を込めて待っているのは、おそらくマイクロソフトだろう。

 で、今回のタイトル「オラクルをクラウドへと誘うマイクロソフト」だが、マイクロソフトが具体的な誘いの言葉を掛けているかは確認していない。これは論理的必然の話である。今、マイクロソフトは、自社のクラウド事業をグーグルとの対立軸で語られることに閉口している。コンシューマ分野はチャレンジャーの立場だから仕方がない。一方、企業向け、つまりエンタープライズクラウドでグーグルと同列に語られることは、そろそろ我慢がならないはずだ。

 そのマイクロソフトは7月12日に、エンタープライズクラウドの領域で、かなり分かりやすい事業提携を発表した。富士通やヒューレット・パッカード、デルに対して、Windows Azureを提供し独自ブランドのサービスを行うことを認めると共に、Azureを組み込んだアプライアンス製品を3社が外販できるようにした。「Azureを外部に売ることはない」と言っていたころに比べると、随分様変わりで、従来のライセンスビジネスのモデルにかなり似通ってきた。

 Azureは一種のPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)で、今後.NETアプリケーション、特に基幹系システムをクラウド環境に移行させる基盤となる。マイクロソフトにとってAzureは、企業向けビジネスをクラウドベースに転換させるための要の位置づけだ。だから、エンタープライズクラウド分野で、マイクロソフト vs グーグルみたいな新旧対決の構図で語られては、マイクロソフトとしてはたまらない。

 グーグルは企業向けでの実績はまだGmailなどコミュニケーション系のアプリケーションに限られる。ただ、クラウドの旗手としてのブランド力と勢いがある。かつてのマイクロソフトがそうであったように、現時点での技術やサービスがプアーでも、旧勢力との対決の構図を印象づけることができればマーケティング上の大勝利。マイクロソフトなどを押しのけて企業向けのビジネスを拡大していく上で有利に働く。

 実はグーグルだけでなく新興のクラウドベンダーは、この辺りが目敏い。グーグル、セールスフォース・ドットコム、ヴイエムウェアはJavaで手を組んだのだ。Javaはもちろん.NETと並び、基幹系システムなど企業アプリケーションを構築する上での二大開発環境だ。新興のクラウドベンダーは共同で、Javaのアプリケーションフレームワークをクラウド上に載せることで、企業向けビジネスで、マイクロソフトとの対決の構図をますます鮮明にしようとしているのだ。

 さて、オラクルである。ラリー・エリソンCEOがクラウドという言葉が嫌いということで、これまで明確なクラウド事業戦略を打ち出してこなかった。もちろんマーケティングの都合から、クラウドと距離を置いていたのだろうけど、このままではクラウドに乗り遅れたイメージができてしまう。これからのビジネス展開に大きな支障が出るから、そろそろ自社のミドルウエアのクラウド対応をどうするのかなど明確な話をしないといけない。

 そして、マイクロソフトもそれを大歓迎のはずだ。サン・マイクロシステムズを吸収したオラクルは今や“Javaの大本山”でもあるわけだし、オラクルがクラウド事業に本腰を入れれば、エンタープライズクラウドでの対決の構図が変化する可能性がある。つまり、マイクロソフト vs グーグルなど新興クラウドベンダーから、マイクロソフト vs オラクルというお馴染みの構図に変わるわけだ。

 それにマイクロソフトにとっては、オラクルとは手の内を知り尽くした間柄。ライバルとは言え、共に本気でエンタープライズクラウド領域を開拓していけば、新興クラウドベンダーの跳梁を許さず、既存のビジネスの延長線上で市場を拡大していけるかもしれない。オラクルはそのあたりの理屈を分かっているだろうか。もちろん、分かっているに違いない。

 ここからは蛇足。そう考えると、IBMのクラウド戦略は実にお見事だ。プライベートクラウドという形で膨大な顧客ベースの周りに城壁を作り、自社のミドルウエアもその城壁の中に入れて、新興クラウドベンダーとの対決の構図の埒外に置いた。マイクロソフトとしては、IBMも城外へ誘い出したいところだろうが、はたして・・・。