PR

 「We will provide PaaS Platform(我々がPaaS基盤を提供する)」。米VMwareの本社会議室で、チーフ・パフォーマンス・アーキテクトとしてソフトウエア開発を統括するリチャード・マクドゥーガル氏が記者に向かってこう語った時、日経コンピュータ2010年7月7日号に掲載するクラウド特集のテーマは決まった。クラウドの主戦場がPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)に移ったことを確信したからだ。

 ご存じの通りVMwareは、仮想マシンソフトの最大手だ。インターネット経由で利用できる仮想マシン貸しサービスのことを、IaaS(インフラストラクチャ・アズ・ア・サービス)と呼ぶことも増えた。そのVMwareが、IaaSではなくPaaSに注力する姿勢を明確に打ち出したのだ。

 マクドゥーガル氏は「仮想マシンにOSやミドルウエア、アプリケーションをインストールして、それを『仮想アプライアンス』のような形で展開するやり方は、モノリシック(一枚岩)なやり方だ」と指摘する。顧客企業がいま利用したいのは、様々なアプリケーションサーバーやWebサーバー、データベースサーバーが連動する「分散Webアプリケーション」であり、そのようなアプリケーションの受け皿としては、IaaSでは力不足で、PaaSが必要だというのだ。

 単なる仮想マシンだけをユーザーに提供するIaaSに対して、PaaSはアプリケーションの負荷に応じてシステム規模が自動的に縮小/拡大するアプリケーション実行環境をユーザーに提供する。IaaSの場合、OSやミドルウエア、データベースをインストールして運用するのはすべてユーザーの責任だが、PaaSの場合はそれらはすべてサービス事業者がやってくれる。ユーザーはアプリケーションの開発にのみ専念できる。

 VMwareは従来、IaaSを実現するための「IaaS基盤」として、仮想マシンソフトをIaaS事業者に提供してきた。それと同じように、PaaSを実現するための「PaaS基盤」を、PaaS事業者に提供しようとしている。そのためにまず、Javaアプリケーションフレームワークとして人気の高い「Spring Framework」の開発元である米SpringSourceを2009年8月に買収した。VMwareはその後、2010年4月に分散メッセージング基盤「RabbitMQ」の開発元である英Rabbit Technologiesを、2010年5月にはインメモリーデータベース「Gemstone」などを開発する米GemStone Systemsを買収している。これらはいずれもSpring Frameworkを強化するための施策だ。

VMwareを軸にした「Java連合」の誕生

 VMwareが提供するPaaS基盤の導入を、一番最初に表明したのが米Salesforce.comだ。Salesforce.comはVMwareからPaaS基盤を調達して、2010年後半以降に「VMforce」というPaaSを開始する予定。VMforceは、Spring Frameworkを使って開発したJavaアプリケーションを利用できるというPaaSだ。Salesforce.comの既存PaaSである「Force.com」は、APEXというSalesforce.comによる独自言語を使ったプログラムしか利用できなかった。

 米Googleが2010年後半に開始する予定の「Google App Engine for Business」も、Spring Frameworkに対応したPaaSである。VMwareには「PaaS基盤を提供する」という強い意志があるのだから、VMwareの仮想マシンソフトが利用できるIaaSが多数存在するように、Spring Frameworkが利用できるPaaSも、将来的には次々と出てくるようになるだろう。そうしてSpring Framworkを軸とした「Javaクラウド連合」のようなものが登場するというのが、「Java vs .NET、舞台はクラウドへ」という特集の見立てであった。

 一方の米Microsoftも、「Windows Azure連合」作りに動き始めた。そのための施策が「Windows Azure Platform Appliance」である。Windows Azure Platform Applianceは、Windows Azureを構成するソフトウエア(PaaS基盤)がインストールされたハードウエアアプライアンスであるが、その規模は「サーバー台数で1000台以上」を想定している。一般企業が社内で利用するというよりは、クラウドサービス事業者が利用するための製品と言える。実際に初期ユーザーとして名乗りを上げた富士通も、群馬県館林市の自社データセンターでWindows Azure Platform Applianceを運用して、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)の提供などに利用することを強調している。

 つまり、Windows Azure Platform Applianceの初期ユーザーである富士通のほか、米eBay、米Dell、米Hewlett-Packardなどは、MicrosoftからPaaS基盤の供給を受けた「Windows Azure連合」の一員だと見なすことができる。

 PaaSを巡っては、一方のサイドにVMware、Salesforce.com、Googleが陣取り、その逆サイドにMicrosoft、富士通、eBay、Dell、HPが並ぶという構図が明確になった。VMforce、Google App Engine for Business、Windows Azure Platform Applianceとも、製品/サービスの提供開始は2010年後半以降。少し気が早いが、2011年はPaaSを巡って新たな主導権争いが本格化する年になりそうだ。