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 どうやら政府は本気のようだ。行政コストの大幅な圧縮と行政サービスの質の向上を目指して、電子行政サービスの全国共通化を推し進めようとしている。その基盤として、クラウドコンピューティング技術を活用することで、1700超ある地方自治体が個別に運営している行政情報システムの統合・集約を実現するという、“壮大な”計画をスタートさせたのである。

 7月30日、総務省は「自治体クラウド推進本部」を旗揚げした。常駐スタッフを置く組織ではないものの、本部長に原口一博総務相が就き、副大臣、政務官、事務次官、関係部局の局長などで構成。課長級による幹事会と、学識経験者などによる有識者懇談会が、地方自治体と協議しながら施策の具体化を進めていく。

 これまでも総務省は、自治体の電子行政の効率化・高度化を目指して、業務プロセスの標準化や情報システムの共同利用、クラウド活用の実証事業などに取り組んできた。ただし、こうした取り組みは担当する課・室が中心となったもの。互いの連携はそれほど意識されていなかったし、取り組み自体もいくつかの自治体に限定した実験的な展開が多かった。だが、今回は違う。大臣のリーダーシップの下、全省を挙げてすべての自治体システムの刷新に踏み出す。まもなく本格化する2011年度の予算編成でも、全省レベルの重点項目の一つに位置づけられることになるはずだ。

 実は、クラウド技術を活用して自治体の情報システムを統合・集約する政府方針は、5月に高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)が公表した「新たな情報通信技術戦略(新IT戦略)」の中で明らかにされている。続いて6月に公表した「工程表」では、内閣官房が電子的フォーマットの共通化や業務プロセス改革などを進めるのと並行して、2010年度中に総務省が情報システムの統合・集約のための仕様の標準化方針を策定し、2011年度中にはシステムの調達基準を策定する計画などが記されている。自治体クラウド推進本部の設置は、一連の工程をスムーズに進めるための体制整備が本格化した表れと言える。

 とはいえ、全国に1700以上もある地方自治体の情報システムを統合・集約するのは決して易しいことではない。例えば、電子的フォーマットや文字コードの共通化は、自治体システムの統合・集約には欠かせない条件の一つだが、これまでの取り組みではなかなか進展がなかった難題でもある。政府はこうした課題に対し、必要に応じて法制度の改定によって、強制力をもって突破する意向である。

 総務省は、自治体へのクラウド導入そのものを推進するための法案の準備も進めている。地方自治体の長に対して、クラウドへの移行予定時期(現有システムの更新時期)、業務改革・業務標準化の内容、クラウド導入に伴う効果・課題・対策などを記した「電子自治体最適化計画(仮称)」を作成する努力義務を課すことを検討している。2011年1月からの次期通常国会への法案提出を目指している。

 自治体システムを統合・集約するメリットは、確かに大きい。総務省の試算では、開発運用コストはメインフレーム方式の約3分の1、クライアント・サーバー方式の約半分に抑えられるとしている。新IT戦略で計画している「国民ID制度」を導入する場合でも、個々の市町村でシステム対応を進める必要はなくなり、国全体のコストも導入期間も圧縮できる。実際、電子行政サービスの全国共通化の工程表には、国民ID制度への対応が組み込まれており、自治体へのクラウド導入と国民IDは一体で整備する構図になっている。

 一方、自治体を対象にビジネスを展開しているITベンダーには、甚大な影響が及びそうだ。業務システムの開発・納入・運用による従来型ビジネスモデルは、次のシステム更新時期までしか成立しないかもしれない。大手はもちろん、地場の中小ベンダーも、クラウド型自治体システムに即したビジネスへの転換を迫られることになる。

 政府が自治体へのクラウド導入を推進する根本には、国家財政の深刻な状況がある。それだけに、仮に政権交代があったとしても、大幅な軌道修正は期待しにくい。同様に、温情的な激変緩和策も、極端なものはあてにできないだろう。ITベンダー各社には、これを機に電子行政システムでの新しいビジネスモデルを作り出すチャレンジが求められている。