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 メーカーの人ほど、ものづくりをしている人ほど、“お客さん”との会話が大事なのではないか――。最近、改めてそう考えるようになった。「そんなの当たり前だ」という声が上がりそうだが、分かっているのと、実際に実行に移すのとでは大きな違いがある。実行しようと思っていても、しがらみや日常の忙しさなどが実行を阻むものだ。だが、本気でお客さんと会話していくと得るものは非常に大きいように思う。

 こう思ったきっかけは二つある。一つは、アップル流の売り方とものづくりの姿勢。もう一つは、カトキチ(現テーブルマーク)のツイッター活用法である。

キャリアを見る日本メーカーとエンドユーザーを見るアップル

 6月に発行した『iPadショック』で、著者の林信行さんはこう記している。

最近の日本の端末メーカーは、製品を最終的に買ってくれる顧客の側ではなく、キャリアの顔色ばかりを見てものづくりをしているように思える。その結果、市場でどんなものが求められているかに鈍感になったところがある。これに対してアップルは、キャリアよりも顧客のほうを向いて、人々が欲しくなるような端末づくりを目指している。

 日本の携帯電話は、メーカーがキャリアに端末を販売し、キャリアからユーザーに販売するという形をとる。実際に端末を使うのはエンドユーザーだと分かってはいても、メーカーが直接話をしたり、要望を受けたりするのはキャリアになる。するとどうしても、キャリアの方を見てしまう。

 一方、アップルはあくまでエンドユーザーの方を向いている。iPhoneやiPadも、ソフトバンクモバイルでの販売に加え、直営店「アップルストア」でも販売している。これは、アップルストアで売ることで、顧客がどのように商品を選んでいるのか、どんな問題を抱えているのかなどをくみ上げ、本社に報告しているからだ。さらに、エンドユーザーのニーズを探るために、アップルはブログやソーシャルネットワークなどを細かく見ている。

 もちろん、アップルはユーザーの意見をすべて製品に反映させているわけではないが、意見を拾った上で機能を絞り込む作業をする。だからこそ、iPhoneやiPadが魅力的な製品になり、ユーザーが勝手に周囲の人に宣伝してくれ、さらに売れるという好循環になるのだと思う。

ダジャレつぶやきでユーザーをカトキチの“営業”に変えた

 お客さんとの会話が大事だと思ったもう一つのきっかけは、企業のツイッター活用の第一人者、“ツイッター部長”こと末広栄二さんの本『ツイッター部長のおそれいりこだし』の編集を担当したことである。末広さんはカトキチブランドを展開するテーブルマーク社の広報部長として、主力商品である「うどん」のコミュニティを作ろうと考えた。ところが、テーブルマークの直接の顧客は問屋や流通各社。うどんを食べるエンドユーザーとはなかなか接点がない。この点、ツイッターなら直接ユーザーとコミュニケーションをとれる。

 ここからホスピタリティ満載の末広さんの絶妙なダジャレつぶやきがツイッター上で始まり、爆笑とともにファンが急増していった。「おそれいります」と「いりこだし」を足し合わせた「おそれいりこだし」という名文句で笑いを取り、「ご麺なさい」と謝り、「ありカトキチ」とお礼を言い、人気がどんどん高まった。

 そうするうちに、「子供向けの小分けうどんがほしい」という要望が寄せられたり、「カトキチなう」とつぶやきながらうどんを食べる現象がはやったりするなど確実にお客さんとのコミュニケーションが増えてきた。さらには、ツイッターを見たお客さんが各地のスーパーに行って、「カトキチブランドの冷凍うどんを置いて」と言ってくれるようになる。この結果、同社の冷凍うどんの販売数は伸びてきた。

 こう書くと簡単そうだが、返事をするときには一人ひとりのプロフィールを確認してその人に合ったダジャレを選んだり、絶妙なタイミングを見計らったりするなど、地味で大きな労力がかかるが、返事をもらったお客さんが喜ぶ手間をかけている。そして、それらの手間をユーザーに押し付けたり、重く感じさせたりしないように、ダジャレを使っているのだ。こうした末広さんのツイッター術は、実は以前に映像会社を自営していた経験、焼肉チェーン「牛角」の急成長期に執行役員として活躍した経験、お菓子チェーンを立て直した経験などが反映された結果でもある。

 方法は全く違うが、アップルや末広さんの労力を惜しまない顧客志向の姿勢は共通しているし、それぞれに大きな成果が出ている。そして、これらの取り組みは、停滞感が漂うあらゆる業種や人たちを勇気づけてくれるものでもあると思う。私自身、出版不況と言われる中で本を編集していても、『ツイッター部長のおそれいりこだし』や『iPadショック』を担当しながら、お客さんの声を聞くことでさらにニーズに合った本が作れるはず、もっと本を知ってもらう手立てがあるはずと、可能性を感じることができた。

 なお、10月1日に『ツイッター部長のおそれいりこだし』刊行記念として、末広栄二さんのトークショー&サイン会(詳細はこちら)を開催します。ぜひ、末広さんの顧客志向の取り組みを直接聞きにお越しください。