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 「IFRS(国際会計基準)に対応するにあたり、どのような作業に着手していますか?」。情報システム部門の担当者にこう尋ねると、「会計システムの見直し」や「販売や購買管理、原価計算、固定資産といった関連システムの修整」を挙げるケースが多いのではないだろうか。いずれも自社全体のIFRS対応の支援にかかわる項目だ。

 意外と忘れがちなのは、IFRS対応に向けて情報システム部門が考慮すべきもう一つの項目である。情報システム部門自体にかかわる会計処理も見直す必要があるのだ。代表例は「リース」に関する会計処理。特にクラウドコンピューティング環境を利用していたり、利用を検討している企業は注意が必要だ。

IT資産が一気に増える?

 企業がクラウド環境を利用する場合、一定期間の使用料を支払うのが一般的だ。現在の日本の会計基準では、情報システム部門は使用料金を「費用」として計上することになる。IT資産の軽減を狙って、クラウドを導入する企業は少なくない。

 ところがIFRSに対応すると、クラウド環境で利用するサーバーなどをユーザー企業の「資産」として計上しなければならなくなる可能性が浮上している。IFRSを策定しているIASB(国際会計基準審議会)は現在、現行の「リース」基準に代わる新たな会計基準の草案を公開している。

 この草案では、すでに資産計上が求められているファイナンスリース(保険や税金を含めたすべての費用を支払い、途中契約ができないリース)と、費用計上で済んだオペレーティングリース(ファイナンスリース以外のリース)の区分を無くしたうえで、「特定の資産または資産群を使用する権利が、一定期間にわたり、対価と交換に移転される権利」という定義に該当するリース契約はすべて資産として計上するとしている。「特定の資産」に該当するための条件や、「無形資産は除く」といった例外規定も設けている(詳細は日経コンピュータ11月24日号「追跡IFRS」を参照)。

 リースの公開草案が適用になった場合、一部のクラウド環境を資産として計上する必要が生じる可能性がある。ハードウエアをホスティングに近い形で利用するIaaS(インフラストラクチャ・アズ・ア・サービス)のようなサービスを複数年契約している、といったケースだ。

 資産計上の対象となるのはクラウド環境に限らない。オペレーティングリースを利用している社内パソコンやサーバー、ネットワーク機器なども資産計上の対象となるかもしれない。IT資産を減らすどころか、結果的に資産が一気に増大する可能性も否定できないのだ。

 日本の会計基準を策定しているASBJ(企業会計基準委員会)は、IASBが策定中のリースに関する会計基準をコンバージェンス(収れん)の1項目として掲げている。ASBJが公表しているプロジェクト計画表では、IASBの会計基準の確定を受けて2011年7~9月に日本企業に向けたリースに関する会計基準の草案を公開する予定としている。

 適用時期は不明だが、IFRSの強制適用よりも早く、新しいリースに関する会計基準が日本企業に適用になる公算が大きい。IFRSを強制適用するかどうかは決まっていないから安心、というわけにはいかない点に留意する必要がある。

他人任せの対応は禁物

 情報システム部門の会計処理に影響を与える項目は、リースに関する会計処理のほかにもある。「既存の社内システムに影響があるから、IFRS対応では修整が必要になる」といわれる「収益認識」に関する会計基準は、情報システム部門の会計処理に影響する可能性があると指摘されている。

 今では少なくなったかもしれないが、ハードウエアやシステム構築、保守などを「一式契約」する場合が一例だ。IFRSでは一式契約は「複合契約」とみなされ、ハードウエア、システム構築費用、保守費用と個別に会計処理をしなければならない見通しだ。ITベンダー側もこれに伴い、保守費用を契約年数ごとに分割して計上するといった会計処理を実施することが求められることになりそうだ。

 情報システム部門は「自社のIFRS適用を支援する」だけでなく、以上のように「自部門の会計処理を見直す」必要がある。これら二つの対応をこなしていくカギは、自らの意見を持ってIFRS対応を進めることとなるだろう。自社や自部門にとって最適な支援策や会計処理は何かを、自ら考えていかなければならない。

 IFRSは周知の通り、考え方を示して詳細な判断は企業ごとに任せる「原則主義」を採用している。同じERP(統合基幹業務システム)パッケージを利用していたとしても、会計方針が異なれば対応も異なることになる。同様に「同じクラウド環境を利用していたとしても企業規模や業種、利用しているアプリケーションによって資産として計上する企業と費用とする企業が分かれるケースがあるだろう」と大手監査法人の公認会計士は指摘する。

 IFRS対応に限らないが、他人任せの対応は禁物だ。情報システム部門自らが判断していく姿勢と、判断できるだけの知識やスキルを持つことが必要になる。

お知らせ
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