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 「スマートフォン活用法を聞き逃げされましたよ」。あるITベンダーに取材した際、このような話を聞いた。あるときこのITベンダーに、iPhoneやAndroid端末の導入を検討したいという企業から問い合わせがあり、相談に乗ったところ、アイデアだけ取られて連絡が途絶えてしまったというのだ。

 この10月から11月にかけて、スマートフォンに関連した取材をしている中で、これまでの取材ではあまり耳にすることがなかった話をいくつか聞いた。冒頭のITベンダーによる発言は、その一つである。

 スマートフォンやタブレット端末を導入しようと考え、検討する企業は増えているようだ。主な用途はメールやスケージュールの確認のようだが、一歩進んで商品説明やプレゼンテーション用のコンテンツを見せたり、専用のアプリケーションを開発したりする企業も現れている。

 ところが企業のIT部門にとって、スマートフォンやタブレット端末は簡単に扱えるものではないようだ。苦悩するIT部門の様子がうかがえる話を、いくつか聞いた。どうやら3つの病に苦しんでいる。「アイデア不足」「横並び症候群」「パートナー欠乏症」である。

IT部門では思いつかない

 冒頭のITベンダーの話に戻ろう。このITベンダーはスマートフォンの活用方法について相談に乗ったが、少し話を聞いたというレベルではなかった。その企業の業務内容やスマートフォンを検討するに至った経緯をヒアリングし、他社の事例を基にした具体的な活用方法を提案したのだという。

 するとその内容に満足したのか、ある時期を境にその企業からの連絡が来なくなった。「おそらく、ウチの提案内容を他社に持ち込んでいるのでしょう」と、ITベンダーの担当者はあきらめ顔だ。

 このITベンダーは、スマートフォンやiPadを活用した業務アプリケーション開発を手掛けている。今、こういったスマートフォンに精通したITベンダーに、企業からの問い合わせが相次いでいる。

 「上司からスマートフォンの導入を検討するよう指示を受けた。良い活用法はないか」「iPadで何ができるようになるのかわからない。相談に乗ってほしい」――。多くの企業がヒントだけでもつかみたいと、門戸を叩いているようだ。明らかに「アイデア不足」である。

 スマートフォン導入のカギとなるのは、現場の声をどれだけ反映できるかだ。あるコンサルタントは、「iPhoneの有効な活用方法を思いつくのは、経営者と現場の業務担当者。IT部門だけでは難しい」と断言する。IT部門の担当者があれこれ考えるよりは、現場の担当者にスマートフォンを自由に使わせて活用方法を模索する、という企業も少なくない。

 別のITベンチャーでは、こんな話を聞いた。「ある企業がiPhoneを1000台規模で導入することを大々的に発表した。すると、同じ業界のほかの企業から次々に案件が舞い込んできた。開発したいアプリケーションは、どの企業もほぼ同じだった」。スマートフォンの取材をすると、似たような話をよく耳にする。

 こういった動きが活発なのは、医薬/医療機器の業界だろう。数千人のMR(医薬情報担当者)や営業担当者を抱える大手が、相次いでスマートフォン導入を決めている。「医薬/医療機器業界は、企業規模に大きな差がなく、MRや営業の業務も似ている。他社の取り組みをそのまま自社に適用するだけで、効果が見込める」と、あるITベンダー担当者は分析する。

 「横並び症候群」と呼ぶのは、やや厳しいだろうか。他社と同じ手法を採用することで、業務効率や売り上げが向上するのならそれでよいという考え方もあるかもしれない。ただいつまでも他社の真似に終始していては、IT部門の存在意義が問われることになりかねない。

パートナー探しが早くも加熱

 スマートフォン関連の動向で、もう一つ気になる点がある。スマートフォンの開発に詳しいITベンダーに、企業からの相談や案件が集中していることだ。

 あるスマートフォン専業のITベンダーの担当者は、「雑誌記事への社名掲載や口コミなどで当社の存在を知り、初めて当社にアクセスしてくる企業が多い」と話す。ユーザー企業の多くは、普段から付き合いのあるITベンダーが何社かあるはずだが、そういったITベンダーを差し置いて、スマートフォンを得意とするベンダーに連絡を取っている。

 確かに、スマートフォンやiPadを使ったシステム開発には、業務システムとは異なるノウハウや技術が必要になる。iPhoneやiPad用のアプリケーションを開発するには、開発言語にObjective-Cを使い、Mac OSを搭載したコンピュータでコードを記述する必要がある。これまでWindowsやLinux上でアプリケーションを開発してきたITベンダーにとっては、未知の領域なのかもしれない。

 そのためスマートフォンに本腰を入れるユーザー企業は、新しいパートナー探しを始めているようだ。「パートナー欠乏症」である。「すでに1社にiPad用アプリケーションを開発してもらったが、今後の開発では、それ以外に数社の選択肢を用意したい」。ある人材派遣会社のIT担当者はこう話す。1社に任せていては、適正な価格で発注できないという危機感を抱いているようだ。

 今後スマートフォンやタブレットPCが、企業情報システムの中で大きな役目を果たすことは間違いない。そのためにも、ユーザー企業は三つの病を乗り越えなければならないだろう。まずはIT部門が、スマートフォンならではのセキュリティ対策や運用管理の方法、アプリケーション開発の注意点などを把握しておくことが大切だ。日経コンピュータ12月8日号の特集記事でこれらを整理した。こちらもぜひご覧いただきたい。