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 日本の周波数政策は大転換期を迎えた。2010年11月25日に開催された総務省の「ワイヤレスブロードバンド実現のための周波数検討ワーキンググループ(周波数検討WG)」において、700MHz帯と900MHz帯を組み合わせてペアバンド(上り周波数帯と下り周波数帯のペア)を構成するという日本独自の割り当て案から、700MHz帯と900MHz帯のそれぞれでペアバンドを作り、国際的に割り当てられた周波数帯と協調する案へ軌道修正したからだ(関連記事1)。

 このきっかけとなったのが、原口一博前総務大臣の発言である。原口氏は2010年4月の会見で、「日本の周波数割り当てが世界標準から外れると日本はまた競争の基盤を失う、損なうということになりかねない」と発言し、電波の再編成の意向を示した(関連記事2)。その後、周波数検討WGが組織されて(関連記事3)、周波数割り当て案の見直しの機運が高まり、700MHz帯と900MHz帯は国際的な割り当てを考慮するという今回の結論に至った。政治主導という民主党政権の方針がうまく機能した数少ない例の一つであろう。

電波オークションの取り扱いに意見集中

 周波数検討WGの検討結果は5日後の11月30日に、グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォースの「過去の競争政策のレビュー部会」「電気通信市場の環境変化への対応検討部会」で報告された。短期間で大変革への筋道をつけたこの検討結果に対して、構成員から称賛の言葉はあまり聞かれなかった。それよりも多くの時間が割かれたのは、「700/900MHz帯で電波オークションをやるのかやらないのか、大きな判断をする山場である。しかし報告書を見ると、電波オークションの導入は間に合わないので、従来通りの比較審査で行こうということに見えるが?」(構成員の町田徹氏)など、700/900MHz帯を電波オークションでは扱わないのかという質問だった。

 これに対して構成員の一人であり、周波数検討WGの主査も務める徳田英幸氏(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科委員長)からは、「700/900MHz帯を使う既存事業者へ移行費用を負担することで、短期間での周波数移行を促す」「移行費用は空いた周波数を利用する携帯電話事業者が負担する」「電波オークションは、移行費用負担の枠組みを実施しながら検討を進める」といった趣旨の発言があり、電波オークションよりも、有用な周波数の早期割り当てを重視する姿勢を見せた。

 700/900MHz帯での電波オークションを検討すべきという声は、政治サイドからも上がっている。その舞台はタスクフォースの翌日に行われた民主党の情報通信議員連盟の事業者ヒアリングである。岸本周平衆議院議員は総務省の桜井俊総合通信基盤局長に対して、「電波オークションについて、立ち退き料の上限を設定して相対でやるものを検討しているようだが、それはオークションとは言わない。ぜひ上限のない、欧米型のオークションを検討してもらいたい」と要望した。

財源か機会損失か

 では700/900MHz帯で、金額に上限を設けない、いわゆる欧米型の電波オークションは導入できるのか。記者は、「可能だが、時間が犠牲になる」と考える。

 導入に向けて避けて通れないのは、オークションに参加できる企業をどう定義するのか、という判断である。例えば900MHz帯はソフトバンクモバイルとイー・モバイルが割り当てを希望しているが、NTTドコモやKDDIは800MHz帯を割り当てられているという理由で排除するのかしないのか。携帯電話事業者ではない異業種、または外資系企業のオークション参加は認めるのか認めないのか、といった判断が必要になる。

 電波オークションの目的は国の財源の確保なので、資金力の豊富なNTTドコモや異業種など参加者は多い方がいいという論理も成り立つ。一方で、「電波オークションを導入するのであれば、放送局もタクシー会社も、NTTドコモやKDDIも、すべての企業が今使っている周波数帯をいったん返上して、その上でオークションをすべきだ。オークションの思想には賛成だが、一部の周波数だけを対象に実行することには弊害がある」(ソフトバンク 代表取締役社長 孫正義氏)という強い反対意見もある。

 700MHz帯においては、NTTドコモやKDDIが割り当てを希望するのでは、という見方がある。900MHz帯と同様に、オークション参加に制限を付けるのか、900MHz帯と700MHz帯の両方のオークションに参加できるようにするのか、といった点を議論しなければならない。地区で免許を分割するかの議論もいるだろう。

 電波オークションの導入という電波法改正の手続きの前に、こうした内容について、国民の声や事業者、有識者の意見を取り入れてコンセンサスを得るためには時間がかかる。今回の周波数検討WGの報告書でも、「現状では電波オークションについて十分なコンセンサスが得られているとは言いがたい」と結論づけている。

 仮に2012年に900MHz帯の利用を開始する前提でオークションを導入するならば、2011年1月の通常国会に法案を提出する必要がある。このため、コンセンサスを得るために残された時間はほとんどない。意見がまとまらず長期化し、900MHz帯だけでなく700MHz帯の利用開始時期である2015年が後ろに倒れることになれば、国民への負担と多大な費用をかけて空けた貴重な周波数が利用されない「空白期間」が生じてしまう。

 電波オークションによって得られる財源と、周波数帯が使われない期間がもたらす機会損失のどちらを重要視すべきか。結論は12月14日に政務三役とICTタスクフォースの構成員が参加して開催するICTタスクフォースの親会「政策決定プラットフォーム」での政治判断に委ねられている。