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 「動かないコンピュータ」は、日経コンピュータが長期にわたって連載し続けている看板コラムである。IT業界に従事する人であれば、日経コンピュータを購読していなくても、「動かないコンピュータ」という言葉は聞いたことがあるかもしれない。

 「動かないコンピュータ」では社会的に影響の大きいシステムダウンや情報漏洩、システムの稼働延期やユーザーとITベンダー間の訴訟など、さまざまな種類のITトラブルを取り上げ、発生原因や経緯、顛末をレポートしている。内容は決して明るいとはいえない。それだけに、このコラムをネガティブなイメージで捉える読者も多いだろう。

 筆者も約2年前に日経コンピュータ編集部に異動する以前は、「動かないコンピュータ」みたいなコラムだけはやりたくないなあ、と思っていた。理由は至って単純。取材申し込みから、取材中、記事執筆、雑誌発行後と、どの過程を想像しても何か“重さ”ばかりがつきまとう気がしたからだ。

 しかし日経コンピュータに記者として所属する以上、「動かないコンピュータ」は避けられない。内情を少し明かすと、このコラムは持ち回りでアサインされるため、必ずどこかのタイミングで担当することになる。

 筆者は2年間で計6回、「動かないコンピュータ」を担当した。「重い」という想像は確かに当たっていた。取材先を探す過程で、取材自体を断られることは珍しくない。取材時の雰囲気や執筆する内容も、基本的に重い。

 一方で、取材を通じて強く関心を持ったことがある。それは、「動かないコンピュータ」を経験した企業が、そのときの失敗からどのように再起したかということだ。

動かないコンピュータの「その後」に三つの共通点

 「動かないコンピュータ」では、トラブルが発生した直後のことを取り上げるケースが多い。このため、トラブルの事象、原因、解決策までは報じることができるが、そこから先にどう変わったのか、までは報じる機会が少ない。東京証券取引所の「arrowhead」のように、過去のトラブル経験を経て成功例が大きく報じられるのは、レアケースだろう。

 東証に限らず、「動かないコンピュータ」を経験した企業がトラブルを教訓として、トラブル前よりも“良い”状況になっているケースがある。その取り組みこそが多くのユーザー企業にとって参考になるのではないか。そんな思いから、日経コンピュータ2010年12月22日号では、「動かないコンピュータ」のその後を追う特集記事を企画し執筆を担当した。

 今回の特集記事では、NTTレゾナント、国土交通省、ゴルフダイジェスト・オンライン(GDO)、全日本空輸(ANA)、ソフトバンク、東京工業品取引所、北海道旅客鉄道(JR北海道)、楽天証券の計8社(団体)の「その後」を取材した。いずれも、一度以上は苦い経験を味わっただけに、その後の再発防止策には説得力がある。経験したトラブルや取り組みは各社各様だが、その中で大きく三つの共通点が見られた。

 一つは、トラブルが起きた箇所を部分的に修整するといった対処療法的な対策にとどまらず、トラブルをなくすための抜本的対策を打ち出そうとしていることだ。IT部門の組織力強化やシステム成果物の品質改善など、時間がかかり、かつ根気が要る取り組みを進めている。時間とお金をかけて本気で取り組もうとする姿勢からは、「二度とトラブルを起こさない」という決意がひしひしと伝わってくる。

 二つめは、過去のトラブルと真正面から向き合おうとする姿勢だ。過去にトラブルが発生した時点では、顧客への応対や復旧作業に追われるなど、大変な苦労を味わったはずだ。それを過去のものとして封印せずに、トラブルが発生した際に在籍していなかった社員にも教訓を引き継ぐ。同じトラブルを起こさないようにする、という緊張感を保つのにも貢献しているようだ。

 三つめはトラブルの再発防止策よりも、万が一トラブルが発生した場合に採るべき行動を重視していることだ。各社はもちろん、トラブルの再発防止策に取り組んでいる。しかし、「絶対に起きない」とは、どんな企業でも言いきれないだろう。

 トラブルを未然に防止する手段だけでなく、トラブルが発生する可能性を踏まえての対応策や事業継続計画を用意しておくことが重要だ。これはどの企業でも課題となっているだろうが、特に過去に大きなトラブルを経験した企業は、実体験を踏まえて重要性を意識しているように感じた。

 これまでに「動かないコンピュータ」に登場した企業に限らず、あらゆる企業が「動かない」を体験する可能性がある。トラブルが起こらないに越したことはないが、トラブルを怖がる必要はない。トラブルを体験することは、その後の新たな「力」になる可能性を秘めている。

 大事なのはシステムトラブルの後にどう動くかだ。万が一「動かないコンピュータ」に遭遇した場合には、それを今後の強化につなげると腹をくくっても良いのではないだろうか。

 日経コンピュータは「動かないコンピュータ」を今後も続けるだろう。それだけでなく、「その後」をしっかりと伝えることも大きな意義があると改めて考えた。