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 日経コミュニケーションの2月号で「iPad時代のペーパーレス」と題する特集を執筆した。これはiPadという新しいペーパーレス化のツールを使って、オフィスや業務プロセスから紙を排除するための実践ノウハウをまとめたものだ。

 この特集のために、オフィスにおける紙とITの関係を長年研究してきた富士ゼロックス研究技術開発本部の大村賢悟氏に取材したとき、「iPadという新しいツールの登場をきっかけに、“ペーパーレス化の第三の波”が到来しつつある」という話をうかがった。特集自体は、「いかに紙をなくすか」という点に主眼を置いた実践的な内容であり、iPadのどのような性質がペーパーレス化を進めるのかについては、あまり紙数を割けなかった。

 そこで今回、紙のドキュメントとデジタルのドキュメントの違いは何かという根本的なところに立ち帰り、iPadのどのような性質がペーパーレス化に貢献するのか、さらには究極的にオフィスでの紙はどのような分野で生き残るのかを探ってみた。

ペーパーレス化の「三つの波」

 まずはオフィスのペーパーレス化の大きな流れについて、簡単にまとめておこう。

 紙を電子デバイスなどの仕組みで置き換えようという動きは、新しい技術が登場するたびに起こっていた。古くは1940年代にバーネバー・ブッシュが提案したハイパーテキストシステムの元祖「Memex」や、1950年代にダグラス・エンゲルバートが開発し、マウスやGUIを初めて実装したコンピュータシステム「NLS」(oN Line System)などがある。ただし、現在のペーパーレス化に直接つながる動きとしては、1970年代中頃から始まる「三つの波」があったと大村氏は主張する。

 「第一の波」は1970年代中頃、米ゼロックスのPARC(パロアルト研究所)が開発したコンピュータ「ALTO」がきっかけだった。紙書類と同じ大きさの縦型ビットマップディスプレイを備え、先進的なGUIやマウスにより電子ドキュメントを操作する。また、イーサネットによるLANを備え、電子ファイルをやり取りすることもできた。こうした動きとは別に、当時電子メールも普及しつつあり、紙文書のやり取りの削減に大きく貢献した。

 「第二の波」が到来したのは1990年代中頃。これはインターネットの普及とWorld Wide Webの登場がきっかけとなった。企業内のネットワークでもIPとWeb技術を応用した「イントラネット」が一般的になり、ドキュメントをデジタルで活用する仕組みが整った。また、ワープロ専用機を代替する形でパソコン向けワープロソフトも普及し、文書を電子的に作成するのも一般的になった。

 そして「第三の波」は2010年、冒頭に述べたiPadをきっかけとして到来した。それ以前にも、Kindleなど個人利用を中心とした電子書籍、ブロードバンド回線の充実、ドキュメントスキャナーの普及といった環境が整ったことも背景として見過ごせない。

「読む」という行為をうまく支援する紙のアフォーダンス

 iPadが登場する前から、ノートPCや大型ディスプレイなどを活用したペーパーレス化の動きはあったが、それらの従来型デバイスではペーパーレス化を徹底することはできなかった。その一方、iPadでも紙の代わりにならない用途は当然ある。

 では、どんな用途がペーパーレス化でき、逆にどんな用途がペーパーレス化に向かないのか。それを考えるには、紙のドキュメントとデジタルのドキュメントの性質を根本から見ていく必要がある。

 そうした考察のために多くの情報を与えてくれる書籍がある。「ペーパーレスオフィスの神話」である。ゼロックスの研究者だった著者のアビゲイル・セレン氏とリチャード・ハーパー氏が、オフィスで紙ドキュメントがいかに使われているかを詳細に研究し、電子ドキュメントに比べ紙ドキュメントがなぜ好まれるのかを明らかにした優れた著書だ(二人とも現在はマイクロソフトリサーチ所属)。なお、この書籍の訳者の一人が前述の大村氏である。