先日、数年ぶりに訪れた上海は熱気にあふれていた。2010年に万博が終了したにもかかわらず、今もなお至るところで高層ビルが建設中。市内各地のショッピングモールはどこも人でいっぱいだった。満員の地下鉄車内ではスマートフォンを熱心に操作する姿があちこちで見られた。
この上海を筆頭に成長著しい中国だが、市場としてとらえた場合、攻略するのは決して容易ではない。日本との商習慣の違いや、世界中から集まる競合他社との激しい競争などが背景にある。進出したものの、期待したほどの成果を上げられずに悩んでいる企業も少なくない。では、成否を分けるポイントは何なのか。2010年度に黒字化や大幅な増収といった成果を上げた日本企業4社に取材して明らかにしようとした。
各社の現場を取材しているうちに筆者が気がついたのは、現場での中国人従業員の活躍ぶりだ。取引先訪問の合間に新規の営業先を発見して会心の笑みを浮かべる営業担当者や、商品倉庫で多数の従業員にきびきびと指示を出すマネジャーの姿などを目にした。このように現場の従業員の活躍があるからこそ成果が出るという点は、日本国内と全く同じなのだと今さらながらに思った。
実はこうした現場の活躍ぶりは、決して偶然のものではない。今回取材した4社は、従業員の行動意欲を引き出すためにそれぞれ工夫を凝らしていた。ここでは一例として、飲食店検索サイト大手のぐるなびの取り組みを紹介したい。同社は2010年12月期に中国事業で初の黒字化を達成した。
ぐるなびは検索サイトに店舗情報を掲載する契約を結んだ飲食店から、情報掲載料を得ることで収入を得ている。単にサイトからの集客効果をアピールするだけではなく、掲載情報の改良や宴会用プランなどを提案しながら飲食店の集客を支援することで、契約料金を高めていく点が特徴だ。
営業日報に行動計画を盛り込ませて成果上げる
同社はこのビジネスモデルをほぼそのまま持ち込む形で2005年11月に中国に進出したものの、当初は苦戦した。最大の原因は、現地の営業担当者が適切な提案営業をできていなかったことだ。飲食店の集客を支援するような提案を出さず、もっぱら検索サイトの宣伝をするばかりだったという。
2008年1月に中国法人の総経理に就任した池澤勇夫氏はこうした状況を変えるため、営業担当者に望ましい行動を促す施策を次々と仕掛けていった。例えば営業日報の記述形式を抜本的に改めた。以前の日報は営業活動の結果を報告する程度にとどまっていたが、契約を取れなかった際に原因を分析させ、次回以降の具体的な行動計画を盛り込ませるようにした。この行動計画の内容を池澤総経理がチェックし、PDCA(計画・実行・検証・見直し)サイクルが回るようにした。
また、新たに加わった社員には「50回ロールプレーイング」に取り組ませた。1人が営業担当者役、もう1人が飲食店のオーナー役を務め、飲食店のニーズを聞き出し、それにかなった提案をするトレーニングだ。最後は池澤総経理自らがオーナー役を務め、厳しく指摘する。営業担当者が確実に身につけるまでに数十回にわたり取り組むことからその名が付いた。
池澤総経理は一連の施策によって、営業担当者が取るべき行動を明確化した。さらに実際に行動しているかどうかを人事評価にしっかりと反映したことで、中国人の営業担当者たちの行動意欲を引き出すことに成功した。2010年12月期、上海では前年同期比1.6倍の2000店舗と契約。1店舗当たりの契約料金も同33%増の600元(約7800円)に高めた。これが黒字達成の原動力となった。
なお、「日経情報ストラテジー」7月号では、ぐるなびの取り組みをさらに詳しく追っているほか、コクヨ、日立物流、森ビルの施策を取り上げている。各社各様の中国攻略法に興味を持っていただけたなら、ぜひともご覧いただきたい。