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 筆者は、2011年4月22日付の日経ビジネスオンラインに、福島第1原発で働く作業員の劣悪な待遇を改善せよを寄稿した。福島第一原発では作業員たちが過酷な環境下で事故対策に従事している点を指摘し、作業能率を向上させるために待遇を改善しなければならないと問題提起したものだ。

 当時の東電関係者は、避難した地域住民の待遇改善が最優先課題で、作業員への配慮は二の次にせざるを得ないと考えていたようだ。しかし、危機管理の観点からすれば、こうした発想は間違っている。避難民の皆さんが願っているのは「快適な避難生活」ではなく、一刻も早く我が家に戻ることだ。その鍵を握っているのが、対策に従事している作業員たちである。

 事態の収拾には何カ月、あるいはそれ以上の期間を要するだろうが、前述した劣悪な環境では長期戦を乗り切れるはずもない。身体が消耗すれば作業能率は落ち、それだけ地元住民の避難生活が長引くこととなる。さらに疲労で判断力や集中力が鈍ればヒューマンエラーが増加するが、作業ミスで放射性物質のさらなる大量流出を引き起こす事態になれば、それこそ目も当てられない。

 そこで、作業員たちの待遇改善が急務と提言したのである。少し言い換えると、「東電の作業員よりも避難民を優先すべし」という感情論では危機管理はできないということだ。

「一般大衆は分かってくれない」という逃避

 実は、この提言の発表は筆者にとっても大きなリスクであった。当時は、未曾有の事故に対する国民の憤まんが燃え上がっているさなかであり、東京電力の擁護と曲解されて、バッシングの標的となる恐れがあったからだ。

 ところが驚いたことに、読者から寄せられたコメントの中で、この提言に明示的に反対する人は皆無だった。ほとんどのコメントは、「著者とまったく同感です。今回の問題は大部分東電の人災によると考えていますが、それはあくまでも上で指揮する人の判断ミスによるものだと思います。現場の人は文字通り命がけで頑張っていると思います。著者の主張のように早急に対応していただく必要があります。」(4月22日付コメント)のように作業員たちの待遇改善に賛同してくれた。ちなみに、読者アンケートでも、「とても参考になった」が81%、「ぜひ読むべき」が86%であり、コメントを投稿した方以外の読者にも、賛同者が非常に多かったものと推察される。

 筆者は、こうした読者の反応を旧知の東電関係者に送付し、作業員たちの待遇向上に取り組むように訴えた。その後、ゴールデンウイーク明けくらいから、マスコミでもこの問題を取り上げる報道が多くなり、徐々に事態は改善の方向に向かった。私の提言の影響など微々たるものだろうが、それでも有識者の端くれとしての務めを果たせたように思う。

 それにしても、バッシングまで覚悟していた筆者にとって、こうした読者の反応はまさに予想外であった。日経ビジネスオンラインなので実務経験の深いビジネスパーソンの読者が多かったことも影響しているだろうが、筆者の考えていた以上に一般の皆さんは理性的で健全だったということだ。この一件を糧として、本コラムは、読者に対して直球勝負で臨むこととしたい。

 さらに言えば、日本では、今回の原子力問題をはじめとして、安全保障問題、外交問題などセンシティブな案件について、「どうせ一般大衆は分かってくれないから」と議論を避ける傾向が認められるが、本当に分かってくれないのだろうか。一部のヒステリックな運動家の振る舞いにおびえ、最初から議論を放棄しているようでは、運動家はさらに図に乗って騒ぎ続け、一般大衆からの支持もいつまでも得られない。議論をしている振りをして、実は議論を拒否している「すれ違い問答」からそろそろ卒業すべきであろう。