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 「残念ながら、日本人選手には、失敗したくないと消極的になる者が少なくない。トライする前からプレッシャーを感じてしまう」。日経情報ストラテジー3月号特集「失敗を生かす組織」では、サッカー元日本代表監督イビチャ・オシム氏のインタビューを掲載した。そこでオシム氏はこんな指摘をしている。

 オシム氏の指摘は企業にもあてはまる。日常業務を破綻無くやり遂げることを重視する減点主義の評価体制や、前年度をベースに組み立てる予算管理制度などは、引き分けを死守するための仕組みといえる。

 こうした常識に逆行するのが、文具メーカーのキングジムだ。

 「10打席のうち9打席は空振り三振でいい。その代わり、1打席はヒットでなくホームランを狙う」。キングジムで開発副本部長を務める亀田登信執行役員は、同社の商品開発理念をこう話す。2008年に発売した電子メモ「ポメラ」は、累計20万台を発売するヒット商品に成長。ポメラを皮切りに、パソコンやスマートフォン、タブレット端末と組み合わせて使う「デジタル文具」の市場を拓いた。

 ポメラはキングジムにとって実に20年ぶりのヒット商品になるという。1988年に発売し、ロングセラーとなったラベルライター「テプラ」などが収益を下支えするなか、長いヒット不在の時代が続いた。1990年にデジタルカメラの前身となる「ダ・ビンチ」を開発するなど、斬新なコンセプトで話題を集めた商品も少なくなかったが、大ヒットには結び付かなかった。

 しかしキングジムでは失敗について1つのポリシーを貫いていたという。「市場が小さかった、もしくは無かったために売れなくても良しとした」と亀田執行役員は話す。顧客ニーズがあるかないか分からない分野に実際に商品を投入してみることで、市場の有無を確認する。いわば失敗を前提にしたビジネスモデルというわけだ。打率1割でも、1本のホームランを未開拓の市場に飛ばせば、競争無く需要を独り占めし、市場拡大の足がかりも作れる。

 失敗を回避せず、新しい市場を探り当てるために戦略的に活用する。こうした姿勢を打ち出す企業は、キングジムだけではない。家電量販店ノジマでは「失敗準備金」を予算として確保し、商品政策や販促の分野で従業員の挑戦を促す。リクルートはネット分野の新事業開発プロセスを見直し、事前に実現可能性を調査するのではなく、まず実サービスを走らせて潜在顧客の「食い付き」を見たうえで事業化の可否を確認することにした。

安くなる失敗コスト

 各社が失敗を積極的に取り込もうとするのは、非連続に変化するニーズをつかむためだ。実市場に商品やサービスを投入し、予期せぬ顧客の反応に悩んだり、もくろみ通りに運ばない業務プロセスを修正したりを重ねる。このように「転びながら考える」ことでこそ、顧客に「刺さる」商品やサービスを生み出せると考えている。

 一方で失敗のコストも下がっている。ネット上のサービスの開発コストはもちろん、エレクトロニクス商品なども設計や試作プロセスにITを活用し、製造をアウトソースすることで多品種少量生産を低コストでまかなえる環境が整ってきた。ソーシャルメディアの普及によって、宣伝広告費も安価になっている。従来は食品や日用品など、資本力のある一部の大企業に限られていた多産多死のビジネスモデルを、小規模な企業でも享受しやすくなってきた。

 時には失敗を積み重ねるばかりでなかなか成果が生まれない時もあるだろう。オシム氏は「それは我慢し、時には褒めよ」とリーダーの心得を示唆する。失敗との付き合い方は、日本企業が世界のピッチで成功を収めるために体得すべき手法となるだろう。