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 1990年代初めから約20年に渡って、多くの日本人の生活を支えてきた二つの“日の丸製品”が今月、申し合わせたかのように相次いで引退する。一つは1992年3月に初代「のぞみ」としてデビューした新幹線300系車両で、去る3月16日にラストランを迎えた。もう一つは国内初のデジタル方式携帯電話サービスとして1993年3月にスタートしたNTTドコモの「mova」だ。こちらの幕引きは3月31日、つまり明日に迫った。

 300系は最高時速を220kmから270kmに大幅アップさせ、東京~新大阪間を二時間半で駆けた名スプリンターだ。新幹線の引退にファンの涙はつきものだが、こと300系の最後の勇姿には、ファンでない人も惜別の思いがひとしお募っただろう。

 一方のmovaは端末の小型化や低価格化、通話エリアの拡大などを背景に、爆発的な携帯電話の普及をもたらす立役者となった。パケット通信サービスも96年にいち早く導入し、後に「iモード」が誕生する下地も作った。

 とはいえ、もはや携帯電話ショップでmova端末を見かけることはないし、空中を飛ぶmovaの電波が目に見えるわけでもない。今日までmovaを愛用してきた数十万人を別にすれば、多くのユーザーにとってmova引退のニュースはさほど重要でないのかもしれない。そう考えると、かつて日経コミュニケーションという雑誌の記者として携帯電話やPHSの動向を追いかけていた筆者としては、ちょっと寂しい。だから今回は、当時の記憶をたどりつつ「書き残した話」を記しておきたい。

「体感速度アップ」に向け、持てる技の全てを注ぐ

 話は10年近く前に遡る。NTTドコモの主力サービスが、movaから「FOMA」へ急速にシフトしていった時期だ。ライバルのKDDIは打倒ドコモの秘策として、下り最大通信速度が2.4メガビット/秒という新世代の高速無線データ通信サービス「CDMA 1X WIN」を2003年11月に開始した。

 その前後に筆者は、CDMA 1X WINの技術検証からサービス開発にまで関わった方と知り合った。仮にAさんとしよう。筆者とAさんは飲みながら次のようなやり取りをした。ちなみに最初の発言が筆者、次の発言がAさんである。

 「CDMA 1X WIN対応機をお借りしてテストしているところですが、確かにデータ通信のスループットを計測すると、FOMAより数段速い。EZwebを使ってみても、iモードより画面がさくさくと切り替わる気がします。通信速度が上がることで、こんなにも使い勝手が良くなるものなんですね」

 「うーん、それがちょっと違うんだなあ。1年くらい前に、NTTドコモが『N504iS』(2002年11月発売)を発売して大ヒットしましたよね。我々がライバルと思っていたのは、実はあの機種なんです。思った以上に手強い相手でしたよ。『勝った』と言えるようになるまで、いろいろと手を打ちました」

 N504iSがライバル。この言葉に筆者は耳を疑った。CDMA 1X WINは単に速いというだけでない。携帯電話システムの世代で言えば「3.5G」に当たる国際規格「1xEV-DO」を採用しており、2000年代における高速無線通信サービスの草分け的な存在だ。一方のN504iSはmova端末である。NTTドコモにとって主力機種の一つには違いないが、通信方式は「2G」に当たる「PDC」で、データ通信速度は最大28.8キロビット/秒しか出せなかったのだ。