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 HTML5を使ったWebサイトというと、映像やアニメーションを使ったグラフィカルなサイトを想像するかもしれない。プラグインを使わずにWebブラウザーの機能だけで動画ファイルや音声ファイルを再生でき、見栄えがよく操作性が高いWebサイトを構築できることは、大きな利点だ。

 実際に企業やソーシャルメディアのサイトで、HTML5を採用する動きが活発だ。2012年4月5日には、毎日新聞社がリニューアルしたニュースサイトでHTML5を全面採用したことが話題になったばかりだ。マルチデバイスに対応するためだという。

 HTML5は、こういった外向けサイトのユーザーインタフェースを豊かにする技術と捉えられがちである。一方で、WebブラウザーによってHTML5への対応状況にばらつきがあるという問題もある。Webサイト運営者は、HTML5に未対応なWebブラウザーも考慮したサイト作りが求められるのが現状だ。

 むしろ、Webブラウザーの種類やバージョンがある程度そろっている企業内のWebサイトの方が、HTML5を採用しやすいのではないか。しかもHTML5は何も、映像やアニメーションを再生するだけの技術ではない。HTML5の機能を活用すれば、企業システムは大きく変わるはずなのだ。日経コンピュータ4月12日号の特集記事「すべてはHTML5になる」の取材を通して、そのことを強く感じた。

社内で採用する動きは少ない

 企業システムに役立ちそうな機能はいくつかある。例えば、ファイルのキャッシュ機能「Application Cache」。Webブラウザーのキャッシュ機能とは別に、Webサイト側で指定したファイルを明示的にキャッシュする。サーバーとの通信ができない状況でもWebページを閲覧することが可能になる。モバイル環境で利用するWebアプリケーションでは、有効な機能だ。

 Webブラウザーにデータベースを持たせる機能もある。「Web Storage」や「IndexedDB」と呼ばれる機能がそうだ。JavaScriptを使ってデータを保存したり、引き出したりできる。業務システムで使うマスターデータや画像ファイルなどを保存しておけば、サーバーにアクセスしなくてもWebブラウザーの画面上に必要なデータを表示できる。

 ほかにも、高速な双方向通信を実現する「WebSocket」や、端末の位置情報データを扱う「Geolocation API」などがある。どれも企業の情報システムで役立ちそうな技術ばかりだ。HTML5を使えば、Webアプリケーションのポテンシャルは大幅に高まりそうだ。

 ただ、実際に企業が社内の情報システムでHTML5を使用している例はまだ少ないと感じる。ITベンダーが提供するクラウドサービスや、パッケージソフト製品でHTML5を採用するものが登場している。また、スマホやタブレット向けのアプリでHTML5を使っているケースはある。

 しかし、企業がHTML5を使って社内システムを開発したという話はあまり聞かない。なぜなのだろうか。

「標準化の後で」では遅い

 原因は大きく二つあると考えている。一つは、「HTML5を使うのはまだ早い」と考えている企業が多いことだ。前述したように、WebブラウザーのHTML5への対応状況にばらつきがある上に、HTML5の標準化作業はまだ完了していない。「ちゃんと標準化されてから検討しよう」というスタンスの企業は少なくなさそうだ。

 もう一つの原因は深刻だ。企業のIT部門に、HTML5やJavaScriptに通じた技術者があまりいないことだ。これまで企業がシステムを開発する際に使う言語といえば、JavaやC#、Visual Basicなどが中心だった。もちろん、これらの言語は今後も重要なのだ。

 ただHTML5では、HTMLのタグやJavaScriptを組み合わせてWebアプリケーションを構築する。Webブラウザー画面上でデータを加工したり、APIを呼び出したりするからだ。サーバー側のアプリケーションを開発する技術だけでなく、HTMLやJavaScriptにもある程度明るくないと、HTML5でシステムを構築するイメージが湧きにくい。

 ネットの技術進歩は早い。HTML5のように、ネットの世界で生まれた優れた技術を企業の情報システムにうまく取り入れるために、企業のIT部門はネットの世界の基本技術を押さえておく必要がありそうだ。

 またネットの「流儀」にも倣う必要があるだろう。すなわち、「標準化が完了してから」という考え方はやめたほうがよい。優れた技術は自社で検証しながら取り入れ、情報システムの改善に役立てていくというように改めるべきだ。標準化が完了するタイミングでその技術を取り入れるようでは、おそらく周回遅れである。