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 ソーシャルメディアを活用して企業が直接顧客に情報発信し、ビッグデータを数値化してマーケティングに生かすといった期待が、企業の間でちょっとしたブームのようだ。だがそうした流行を追う前に、2012年8月に国会で成立した法律をヒントにしてはどうだろう。その法律とは「消費者教育推進法」。優れた商品やサービスを能動的に選べる消費者を育てようと、企業と行政の連携を求める内容だ。

 何やら難しそうな法律が何の役に立つのかと思われるかもしれない。実はこの法律と似たような考え方が、マーケティングの分野で既に知られている。両者に共通する考え方に、ソーシャルメディアなどを活用したい企業にとって、まず考えておくべき要素があると思えるからだ。

自ら考えて選ぶ消費者を育てる

 消費者はソーシャルメディアでいろいろな企業の商品やサービスについてやりとりをしている。だが知識不足による誤解や、理由なき批判も広まりやすい面もある。やみくもにインターネットへの書き込みを増やしたところで、消費者がすんなりと理解してくれるとは言い難い。製品に記載する「使用上の注意」にすべてを書き込んで読みやすくするのは難しいように、説明が膨大になって誰も読まなくなるだけだ。

 ならば消費者を単なる情報の受け手と考えるのではなく、それこそ学校教育で正しい知識や自社の価値観を共有してもらって、情報の発信者になってもらおうという考え方が広がった。

 優れた製品やサービスを提供している企業にとって、消費者が正しい知識で選んで市場原理がきちんと働くようになる方が望ましい。例えば安い価格で消費者を引きつけても環境を破壊してしまうような企業に押しのけられ、結果として市場原理をゆがめられるような事態は避けなければならない。

 そこで消費者行政との連携が必要になる。連携の場として、企業の顧客対応部門の責任者らで組織する消費者関連専門家会議(ACAP=エイキャップ)というトヨタ自動車など570社を超える企業らが会員の公益社団法人がある。

行政との対立ではなく連携

 これまで消費者にかかわる行政といえば、消費者庁が違法と判断した「コンプリートガチャ」のアイテム商法や、製品欠陥による事故情報の公表など、企業と対立するようなイメージが強いかもしれない。8月に成立した消費者教育推進法も、消費者被害の拡大を食い止めるために消費者が声を上げやすくするという狙いが込められている。そのため「行政が担う詐欺まがいの事件への対応と、企業が取り組む顧客満足度の向上とはズレがある」(メーカーの顧客対応担当者)という意識が企業にはある。

 とはいえ、詐欺まがいの事件に消費者が巻き込まれないようにすることと、優れた企業の製品やサービスが積極的に評価される社会にしていくのは同一線上にある。消費者が自ら判断して選んでもらうようにするという目的では一緒だからだ。

 消費者教育推進法では、企業に対して「消費者教育の推進のための自主的な活動に努めるもの」と比較的弱い要求に表現がとどめられた。だが企業からも「自ら考えて理解して選ぶ消費者を育てることに取り組むべきだ」(家庭用品メーカー)という声が出ている。発足して丸3年が経過した消費者庁には、情報発信が不十分との批判もある。ならば企業から行政を動かしていく必要があるだろう。

先端マーケティングでも実践

 実はマーケティングの分野でも、似たような問題が提起されている。現代マーケティングの第一人者といわれるフィリップ・コトラー氏は、著書「コトラーのマーケティング3.0 ソーシャル・メディア時代の新法則」(朝日新聞出版)で、マーケティング3.0を次のように定義している。

 マーケティング1.0とは「工場から生み出される製品をすべての潜在的購買者に売り込むことだった」。マーケティング2.0では、消費者は情報化の進展で幅広い選択肢を与えられたものの、「消費者がマーケティング活動の受動的なターゲットであるという見方を暗黙のうちに前提」にしてしまっているという。それは企業の「消費者志向」の段階に過ぎないというわけだ。

 マーケティング3.0を実践する企業は、さらに段階が上がる。「より大きなミッションやビジョンや価値を持ち、世界に貢献することを目指している。社会の問題に対するソリューションを提供しようとしている」と、コトラー氏は説明する。

 一方で消費者教育推進法では、消費者が「地球環境」や「公正で持続可能な社会」に向けて社会に積極的に関与する「消費者市民社会」という言葉を法律に初めて入れた。コトラー氏のいう「社会の問題に対するソリューションを提供しようとしている」という考え方につながっているといえる。「消費者が日ごろの“財布の使い方”によって、優れた企業や製品を積極的に評価する社会を作ることに、企業もかかわる必要がある」(西村隆男・横浜国立大学教育人間科学部教授)というわけだ。

 ソーシャルメディアなどをマーケティングに生かそうとするならば、まず企業として自らの価値観を発信していくことも求められる。飾りばかりのCSR(企業の社会的責任)の取り組みを伝えるだけではネットの厳しい視線には耐えられないだろう。それこそ「消費者市民」を固定客として取り込むような発想が必要になる。