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 学校を親の立場から見るようになって、教室での「学び」のスタイルが、自分が学生だった30年くらい前とほとんど変わらないことに、とても驚いている。先生は、どの教室でも同じことを板書して、生徒はそれを書き写しながら黙って聞いている。時折、質問に答えて1時間が過ぎる。授業によっては、ほとんどの生徒が一言もしゃべらないこともある。サンプルが少なすぎるかもしれないが、少なくとも自分の子どもたちが通ってきた学校や塾を見る限りはそうだ。

 この30年間の学校の外の変化といえば、あえて言うまでもない。パソコンは各家庭で当たり前に使われるようになり、インターネットで世界中のコンテンツを見て、多くの人とつながることができる。今では小学生もプログラムを書く時代である。社会への発信も様々な形で可能になった。変化が加速する社会と変わらない学校。そのギャップに愕然としていた。

無料のオンライン講義に15万人が登録

 そんな折、ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学(MIT)が共同で立ち上げた無料オンライン講義のプロジェクト「edX」の様子を手っ取り早く知る機会があった。デジタルハリウッド大学が2012年10月末に主催した「近未来教育フォーラム2012」での講演だ(関連記事)。ここには、北米のオープンエデュケーション事情に詳しい京都大学教授の飯吉透氏、アクティブラーニング代表の羽根拓也氏が、そろってedXを紹介していた。

 edXは、2012年秋に始まったばかりのオンライン講義。edXのホームページを見ると、コンピュータサイエンスや電子回路、プログラミングといった基礎的な講義だけでなく、SaaS(Software as a Service)のように比較的新しいテーマの講義も受講できるようだ。すべてのコンテンツは無料で、世界中のどこにいても講義に参加することが可能。

 edXのディレクターにインタビューした羽根氏によると、既に15万人が登録し、1万人が一定のカリキュラムを終えて中間試験にたどりついている。登録者の居住国の上位には米国・英国のような英語圏の国が並ぶが、コロンビアのような非英語圏からの受講も上位に食い込んでいるという(コロンビアはスペイン語圏)。現在では、プロジェクトを立ち上げた2大学に加え、カリフォルニア大学バークレイ校やテキサスシステム大学も参加している。

 米国ではedX以外にもカーネギーメロン大学(CMU)の「Open Learning Initiative」などがあり、有名校が覇を競っているようにも見える。スティーブ・ブランク氏による、起業家を育成するためのプログラム「リーン・ローンチパッド」クラスも、無償で受講できるようになった(関連記事)。事情は異なるが、建物としての学校インフラが整っていない新興国などでは、オンラインによる高等教育機関が整備され始めている。アフリカでのオンライン大学「African Virtual University」などだ。

学校を外に開いたら「何が起こるか」

 こうした新しい取り組みには、当然、軋轢もある。edXを始めようとした際、ハーバード、MIT両大学の学生の親からは、「高い学費を納めているのに、なぜ講義を無償で公開するのか」という不満の声があがったという。それでも学校としては「既存教育を変える可能性に気付いた」(羽根氏)として、edXの開講に踏み切った。講義を無償公開しただけではない。その運営に50億円の巨額を投じている。

 「学校を外に開いていった結果、何が起こるのか」。この質問に明確な答えが見出せるのはしばらく先かもしれない。しかし、米国では、こうした教育のオープン化プロジェクトに無報酬で参加する、グーグルやフェイスブックのトップエンジニアが後を絶たないという。彼らのモチベーションははっきりしていて、「この変革にかかわりたいと感じているから」(羽根氏)。それを傍で見ているのではなく、身をもって体験したいという衝動が働いているのだ。今後どんな展開があるのか分からないが、この変革を経験した人としなかった人では、得るものがそれこそケタ違いであることは間違いない。

 こうした流れは、既存の枠組みを壊して混沌を生むものであり、人によっては不愉快な動き、不安にさせる動きかもしれない。こんな変化を大人が拒むのは簡単だ。一連の世界の動きを無視すればいいのだから。しかし、そのツケは、自分たちの子ども世代、孫世代の身に降りかかってくる。気が付いたときに手遅れにならないよう、まずはこうした世界の変化を伝え、今のままでいいのかと皆さんに、そして自分にも問いかけていきたいと考えている。

■変更履歴
当初、edXへの投資額を50億ドルとしていましたが、正しくは50億円です。お詫びして訂正します。 本文は修正済みです。[2012/11/19 21:10]