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 先日、ITproの姉妹サイトであるITpro Activeで、オンラインストレージサービスの利用実態調査を執筆した。調査ではDropboxやGoogleDriveといったオンラインストレージサービスについて、利用中のサービスとともに「全体的な満足度」「不満に感じる点」などを質問、計715人から回答を得た。

 調査結果の詳細は記事をご覧いただくとして、執筆していて一つ気になったことがあった。それは、オンラインストレージサービスの有料プランと無料プランの満足度の差である。

 オンラインストレージサービスの多くは、無料で利用できるプランと、ストレージ容量の上限を増やせる有料プランを提供している。そこで、有料プランを利用しているかどうかを質問した上で、有料プランと無料プランに分けて「全体的な満足度」をクロス集計した。

 調査結果を見るまでは、有料プランよりも無料プランの満足度が高くなると予想していた。料金を支払う有料プランは要求されるサービスレベルが高くなり、その分、無料プランよりも評価が厳しくなると考えていたのだ。

 それに単純にストレージ容量が増やしたいのであれば、無料プランのストレージ容量が上限に近づくたびに新しいアカウントを取得して、複数のアカウントを使い倒していくというやり方もある。もちろん、多少の煩雑さを厭(いと)わなければの話ではあるが。

 しかし、調査結果は異なっていた。有料プランを利用している回答者の「満足」が32.7%だったのに対して、無料プランの範囲内だけで利用している回答者の「満足」は21.0%にとどまった()。有料プランの満足度は、無料プランを大差で上回っていた。

図●無料プラン、有料プランごとの全体的な満足度
図●無料プラン、有料プランごとの全体的な満足度

 有料プランの満足度が高い理由として、記事では「有料プランのユーザーは利用目的がはっきりしており、その分だけ満足度が高くなったのではないか」「有料プランは(データの共有など)部門単位で利用することが多いため、料金は会社の経費として処理しているのではないか」などと書いた。しかし、いずれも推測の域を出ないものである。

人はお金を払ったものを失敗とは認めたがらない

 そのとき頭に浮かびながら、記事には書かなかった理由がある。それは「人はお金を払ったものを、失敗とは認めたがらない」というものである。有料プランに不満があることを認めると、支払った料金はそのまま「損失」と感じられる。これに対して、無料プランであれば「損失」となるお金がもともと存在しないので、不満を気軽に認めることができる。

 もちろん、この理由付けも推測に過ぎない。だが、こうした傾向(無料よりも有料の満足度が高くなる)は、しばしば見かける。例えば、弊社では多数のセミナーを開催しており、その中には受講料をいただく有料セミナーと無料で参加できるセミナーがある。セミナーの多くは終了後に満足度を質問するアンケートを実施しているが、ここでも無料セミナーより有料セミナーの満足度が高くなる傾向がある。

 お金に限定せず、手に入れるために費やした努力、情熱、時間まで含めると、この傾向はいろんなケースにあてはまる気がする。傍から見ていると明らかに失敗であっても、それ相応のコストを支払ってきた当人はなかなか失敗とは認めたがらない、というのはよくある話である。

 この「人はお金を払ったものを、失敗とは認めたがらない」は以前、何かの本かWebサイトで読んで、面白いと思って覚えていたものだ。前述の調査記事を執筆するにあたって、そのソースが何だったのかいろいろ調べてみたのだが、とうとう見つけることができなかった。記事に書かなかったのは、そのためである。あるいは、そんな本やサイトはそもそも存在しておらず、記者が日頃から感じていることを、どこかで読んだ話と思い込んでいただけなのかもしれない(その可能性はかなりある)。

 管理会計では支払いを終えた、あるいは回避できないコストは「埋没原価」(Sunk Cost)と呼ばれ、将来の合理的な行動を選択する際には、考慮する必要はないとされている。オンラインストレージサービスで言えば、これまで支払った金額はいったん忘れて、無料プランと比較しながら、支払い額に見合うだけの価値を有料プランから今後も得られるかどうかを判断すべきなのだろう。

 もちろん、世の中にはお金を払っただけの、あるいはそれ以上の価値をもたらす製品・サービスが存在する。オンラインストレージサービスの有料プランがその一つだった可能性も高い。それでも、IT関連の製品やサービスを含めた日常の生活における様々な選択で、「お金を払ったもの=価値がある」というバイアスにとらわれていないか、記者自身も今一度、冷静に振り返ってみようと考えている。