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 データサイエンティスト──。ビッグデータを分析して業務を変革し、社内にイノベーションを起こす人材の総称である。最近にわかに注目を集めるこの職種だが、話題先行で実体がまるで伴っていないとの厳しい指摘があるのも事実である。

 そんななか、私は2012年秋に、大阪で1人の男性と出会った。彼こそ、私がイメージしていたデータサイエンティストそのものだった。

 河本薫(46歳)。大阪ガス情報通信部ビジネスアナリシスセンター所長で、10人から成る社内分析チームを率いるリーダーである(写真)。

 常に腰が低く、気取ったところが全くない。「俺が分析してやる」といった嫌味な感じは一切しない。

大阪ガスの河本薫情報通信部ビジネスアナリシスセンター所長(写真撮影:宮田 昌彦)
大阪ガスの河本薫情報通信部ビジネスアナリシスセンター所長
(写真撮影:宮田 昌彦)
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 この第一印象に、私はとても好感を持った。と同時に、“本物”のデータサイエンティストには欠かせない素養なのだろうなと感じた。映画に出てくる「触れると切れそうな堅物の分析官」のイメージとはかけ離れている。

 河本所長の専門は、ガス会社の社員らしくエネルギー分析。福島第一原子力発電所の事故の後、世の中がエネルギー消費に敏感になり、エネルギー分析の専門家である河本所長が社内で一気に脚光を浴びるようになった。

 ここに2年ほど前から、ビッグデータ分析というIT業界のトレンドが重なった。河本所長はこのところ、外部での講演依頼はもちろんのこと、「大阪ガスの分析事例について話を聞かせてほしい」「我が社も分析チームを作りたいのでアドバイスをいただけないか」と、声が掛かる機会が急増しているという。

「無くても困らない組織」という自覚を持つ

 年が明けて、2013年1月。私は再び、河本所長と今度は東京で会って話をする機会を得た。ここでも相変わらずの低姿勢だった。

 「我々は明日、社内から無くなっても誰も困らない組織ですからね」

 そう言って、河本所長はのっけから笑う。最近はさぞかし社内外から注目されているであろうに、自慢話は出てこない。ここに至るまでの、河本所長の数々のご苦労があるからなのだろう。

 「分析結果を社内でプレゼンテーションし、『それはいい』『素晴らしい』と拍手喝さいを浴びても、その後、会社が全く変わっていかない。そんな悔しい経験を今までに何度もしてきていますからね」

 河本所長はそう打ち明ける。どんなに分析結果が素晴らしくても、現場が動いてくれなければ、何の意味もない。そう痛感してきた河本所長の言葉には重みがある。分析担当者として、華々しい実績ばかり残してきたわけではないのだ。