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 「専門家の意見が相反しており、本件バグの発見等が容易であることを認定することは困難であった」――。東京高等裁判所の加藤新太郎裁判長は、主文を後回しにして判決理由を読み上げた。

 みずほ証券が、株誤発注による損失など約415億円の賠償を求めて東京証券取引所を提訴していた裁判の控訴審で、東京高裁は第一審と同じく、東証に約107億円の支払いを命じる判決を言い渡した(関連記事:みずほ証-東証の株誤発注控訴審、一審と同じく東証に107億円賠償命令、バグの重過失認めず)。

 東京高裁は、誤発注が判明した後も東証が売買を停止しなかったことについては、第一審と同じく東証の重過失を認定した。過失の割合も東証が7割、みずほ証券が3割と変わらず、賠償金額に変更はなかった。

 一方で、みずほ証券が誤発注を取り消せない原因となった売買システムのバグの扱いや、債務不履行の考え方など、いくつかの点で第一審とは異なる判断が下された。日経コンピュータが入手した判決書を基に、判決理由の要旨を説明する。

 まず裁判所は、東証が取引先の証券会社に負っている債務として、個別の注文に対して取消処理を行う義務はないものの、「適切に取消処理ができる市場システムを提供する義務」はあったと認定した。つまり、注文を取り消せないバグを含むシステムを提供していた点で、「東証の債務履行は不完全だった」とした。

 加えて、売買システムを開発した富士通と、開発を委託した東証との関係については、「富士通は東証の債務履行補助者だった」と認定した。つまり、システムのバグについて富士通に重過失があれば、信義則上、それは東証の重過失と同一視できることになる。

 この2つの前提を受け、高裁は本件のバグが重過失に当たるか、つまり「バグの作り込みの回避、発見・修正が容易であったか」を検討した。仮に、富士通によるバグの発見などが容易だったと認定されれば、それは東証が重過失を犯したことになり、債務不履行による賠償が認められることになる。

 裁判所は、この件に関して双方が提出した専門家の意見書が「相反するものであり、甲乙つけがたいところである」とし、いずれかの主張を一方的に採用することを避けた。その上で、「後知恵の弊に陥ることがないようにするが肝要」であること、さらに今回のバグが複数の条件の組み合わせで発生することから、「本件バグの発見等が容易であることを認定することが困難であった」とした。

 さらに東京高裁は、東証とみずほ証との間に結ばれた契約の免責条項(東証側に故意、重過失がない限り、東証は取引所の利用に伴う損失の責任を負わない、というもの)について、東証に重過失があったかを立証する責任はみずほ証側にあるとした。バグの発見などが容易だったと認定するのが難しい以上、東証を重過失と認めることはできず、契約の免責条項はそのまま適用されるとした。バグを含むシステムを提供した東証の債務履行は不完全だったものの、この免責規定により賠償義務は負わない、というのが裁判所の結論である。