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 日経コンピュータ2013年10月17日号の特集「『Suica履歴販売』は何を誤ったのか」のあとがきでも書いたのだが、「データ分析とプライバシー」をテーマに記事を書くのは、IT記者として結構ストレスがたまる作業である。

 まず、議論がややこしい。「個人情報とは何か」について、専門家の間でも確たるコンセンサスがない。そもそも、プライバシーの権利について、法学者の間で議論が定まっていない。

 このテーマで取材すると、取材先の企業からは「細かい話を聞く記者だなあ」と煙たがれる。一方で、記事の中で「データ利活用とのバランスも大事」と書けば、プライバシー保護を重視する匿名諸氏からTwitterなどで罵倒を浴びる。いずれにせよ、あまりいい思いをした記憶がない。

 それでもせっせと記事を書いている背景には、データ利活用とプライバシー保護のバランスについて、誰もが「ルール作りは重要」と言いながら、誰も何も決めようとしないことへのいらだちがあったように思う。過去に遡って、これまでのプライバシー保護に関する議論を振り返ってみたい。

きっかけは「情報大航海プロジェクト」

 購買履歴、位置データ、健康情報といった、個人にかかわる情報(パーソナルデータ)の利活用とプライバシー保護のルール作りが国内で本格的に議論されたのは、2000年代後半だった、と記憶している。

 きっかけは、経済産業省の主導で2007年に始まった「情報大航海プロジェクト」だ。当初はマスコミなどで「国産検索エンジンの開発」と紹介されていたが、これは予算獲得のための方便のようなもので、実際にはテキストに限らず画像、動画、ライフログといった非構造データを分析して価値ある情報を取り出す、という内容。今で言う、ビッグデータ分析の先駆けに当たるプロジェクトだった。

 だが、100億円強を投じて2010年3月に終了した同プロジェクトでは、ベンチャー企業を中心にいくつかの実用化事例があったものの、多くは実用に結びつかなかった。私は2010年7月付の日経産業新聞で、「『情報大航海プロジェクト』検証 ITサービス、実用化に壁」という検証記事を掲載した。

 この取材の際に、プロジェクト関係者の多くが「今はダメでも将来は実用化の芽がある」と推した実証実験があった。NTTドコモが実施した、携帯電話を通じてあらゆる行動履歴を収集、分析する「マイ・ライフ・アシストサービス」である(関連記事:実証事業「マイ・ライフ・アシスト」でつかんだもの---NTTドコモ)。

 この実証実験では、位置情報の流通によるプライバシーの侵害を防ぐため、特定の個人を割り出せないようにデータを抽象化する「匿名化」の技術をNECなどが開発した。東京大学教授としてプロジェクトのアドバイザーを務めていた喜連川優氏(現:国立情報学研究所 所長)は当時、「(位置情報などの)ライフログ情報が、匿名化を通じてマネタイズ可能になることを実証したのは大きな成果」と語っていた(関連記事:“検索”を超える基盤を作りたい、行動把握をマネタイズの原資に---喜連川優氏)。