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 上田氏は翌日、いつもより遅れて出社した。酒がだいぶ残った。昨日は本当にこの仕事の話はなかった。浮島さんが子会社でどんなことをやっていたのかを聞くのは楽しかった。過去に書いた論文の話も参考になったし、八ヶ岳登山の話も、真鶴での釣りの話も面白かった。

 上田氏が机に座って回覧されている雑誌をめくったときである。何気なく記事を読んでいた上田氏は、急に立ち上がって雑誌を持って浮島氏の席に走った。持っていた雑誌は今日発売のITコンピュータ、記事の見出しは「品質改善のための上流プロセス最新事例」だったのだ。

 そこには、上田氏が提案したフロントローディング方式の品質改善が、特集記事として掲載されていた。その方式に取り組む会社が集まってコンソーシアムを作って、フレームワークを共同で標準化する、資金を出し合ってソフトウエアを共同開発する、などの活動内容が書かれていた。

 そして、その事務局には、自分の名前があった。担当はA社の上田と記され、メールアドレスはおろか、電話番号まで記載されていたのだ。上田氏は、ITコンピュータ誌を掴んだまま、浮島氏のいる部屋に飛び込んだ。

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上田:これですか?これが明日になれば動くと言っていたことですか?

浮島:ああ、そうだ。

上田:浮島さんがリークしたんでしょ。酷いじゃないですか?私のアイデアですよ。

浮島:それは違う。お前は社外の人から、いろいろと知識をもらっただけだろう。俺はリークなんかしてないよ。もともと、上流重視、フロントローディングの流れがあって、コンソーシアムの設立は時間の問題だった。

上田:でも、こんなタイミングよく出るなんておかしいですよ。

浮島:まあ、ITコンピュータの芳田編集長と編集委員の喜村委員には、取材したらどうですか?とはメール出したけどな。この間お前と作戦会議しているときに、スマートフォンでな。

上田:あの時ですか、スマートフォンに夢中になってたとき……。