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高選圭氏写真

高選圭(ゴ・ソンギュ)

韓国中央選挙管理委員会選挙研修院教授

1966年生まれ、2000年日本東北大学大学院卒業(情報科学博士)。ソウル市電子政府研究所企画部長、世宗研究所研究委員を経て、現職。韓国の電子投票システムの開発、サイバー選挙運動・参加等の研究を進めている。著書は「日本の電子政府・電子投票」「韓国の電子投票・インターネット投票」「東アジアのIT国際協力政策と電子政府」「U-koreaへの取り組みと社会変化」のほか多数。

 超高速情報通信技術の発達は、私たちの生活のみならず政治過程でも少なくない変化をもたらしている。特に、インターネットの政治空間への導入は政党活動や選挙運動はもちろん、投票自体にも大きな変化を呼び起こしている。韓国でも2005年1月国政選挙への電子投票導入が正式に発表され、韓国中央選挙管理委員会を中心にシステム開発と仕組みの工夫が本格化している。電子投票の導入は選挙管理業務の効率化だけではなく、選挙過程を情報化することで業務を迅速化、簡素化するとともに疑問票や無効票などをなくす効果がある。最近、投票をめぐる様々な環境変化は、選挙制度や投票方法に対する新しいシステム導入というパラダイム転換的発想を要求している。なお投票率が持続的に低下していく中で有権者に対する投票便宜向上と政治参加手段の多様化が切実に要求されている。

 韓国の場合、電子投票の導入必要性は頻繁に行われている選挙に伴う莫大な選挙費用の削減と有権者が感じる投票費用の減少を通じて投票率向上などの観点から提起されてきた。また、電子投票は電子政府構築による行政システムの構造改革と電子民主主義の到来に伴う民主主義プロセスの再設計という意味で、民主主義制度の見直しの観点からも要求されている。こうした意味で電子投票の導入は投票手段の変換だけの問題ではなく選挙プロセス全般にわたる情報化を図る国家プロジェクトだと言える。さらに、急進している国際化・IT世界経済競争に関連しては、電子投票(e-voting)システムという先端電子政治(e-politics)システム構築を通じて既存の「IT先端国家」イメージを「IT政治の強国」へ国家イメージを作り直す必要性からも電子投票は推進されている。

 韓国の電子選挙システムは、有権者名簿DB構築、電子投票・選挙行政システム、電子住民投票及び民間選挙支援システム、インターネット選挙システム等で構成されている。それから社会・政治的な制度と法律の整備がもう一つの内容として進められている。電子投票システム構築の目標は、有権者に対する投票便宜の増大、障害者や海外不在者に対する政治参加機会の拡大、そして選挙管理業務の効率化を図ることによるデジタル時代における電子民主主義の実現がその目標である。

 韓国は1998年から公職選挙に導入する目的で中央選挙管理委員会が投票・開票電算化計画の一環として押しボタン式の電子投票機器を開発してきた。その後2001年にはより使いやすいタッチスクリーン方式の電子投票機械を開発した。この電子投票機は実際の導入にあたり政党間意見対立と国民的合意、インフラ整備また技術的安全性及び初期導入費用の問題などで導入までは至らなかった。しかし,2002年大統領選挙を控えて2002年3月9日から始まった民主党大統領候補選出予備選挙と4月13日から実施されたハンナラ党大統領候補選出のための党内予備選挙で電子投票が実施された。

 また2004年6月に実施された民主労動党代表及び2004年7月ハンナラ党代表選挙で携帯電話のショートメッセージサービス(SMS、携帯電話で短い文字メッセージを送受信できるサービス) を活用して本人確認の認証書を発給する方式でインターネット投票が実施された。公職選挙以外にも電子投票の導入は学校の学生代表選挙に電子投票・インターネット投票が実施されている状況である。

■2012年にはインターネットによる投票を全面導入

 以上のような状況を踏まえて2005年1月、韓国中央選挙管理委員会は2008年国会議員選挙に電子投票、2012年国会議員選挙にインターネット選挙を全面的に導入する計画を発表した(希望者は紙での投票も可能)。韓国の電子投票の開発計画及びシステム構築内容は、まず2005年5月から電子投票及びインターネット投票システムを同時開発することである。2005年5月から電子投票機の開発が本格的に行われ、8月現在実験投票用の機械開発はほぼ完了している。

 投票端末機器は分散方式でキオスク(KIOSK)方式を採択しているが、その理由はハッキングやシステムダウンなどの非常事態に備えるためである。また電子投票に活用される有権者名簿は統合選挙人名簿確認システムを構築して重複投票を防止する。開票及び検票システム (バーコード検証システム)を取り入れてリアルタイム検証が可能となり開票状況のリアルタイムチェックが出来るように構築される。

 実際に投票所で投票に利用する投票カードは候補者・政党情報等の選挙情報が入力されたスマートカードを使って投票するようになる。2008年国会議員選挙での投票方式は電子投票のみならず多様な方式の投票が併行導入される。高齢者を配慮し従来の紙投票は維持する。海外不在者投票にはインターネット投票が利用される。有権者は便利な方法を選択することができるので、有権者中心の民主的な投票サービスの提供を目指している。従来の紙投票を残しことで手続きとコストが増える批判はあるが投票の基本原則を守り、普通・平等選挙を保障するにはやむ得ない選択である。

 海外不在者を対象としてインターネット投票システムも導入する。これは、2012年のインターネット投票システムの全面導入(希望者は紙の投票も可能)の際の安全性確保に大きく寄与することと予想される。

 投票データの記録は記録媒体(USB)を利用する。従って開票は従来通り開票所で行われる。しかし韓国の場合、各開票所と中央選挙管理委員会開票サーバ間は専用線としてネットワークが構築されている。つまり、各開票所では、開票した投票データを読み込むとそのデータは専用ネットワークを通じて中央開票サーバへ送られ、全国の各選挙区別集計が行われるのである。

 韓国は今後の電子投票を公職選挙はもちろん民間選挙及び政党の予備選挙・総裁選挙にも積極的に活用する計画である。今後、公職選挙への導入のため、法的・制度的整備を本格的に取り組んでいる。電子投票を公職選挙に導入するためには法律的な整備が必要であるが、2004年3月の公職選挙法改正の際、電子投票の導入は各政党間の政治的合意によって可能になると規定した。現在、各政党・関連省庁・学界専門家と構成されている「電子選挙推進協議会」が具体的な内容と手続きを協議している。2007年国会議員補欠選挙では本番に備えて実験投票を実施し、その後2008年国会議員選挙から本格的に取り入れる計画である。

 2006年から非公職選挙及び委託選挙にも実験投票を積極的に実施する計画だ。政党の党内予備選挙,住民投票,学校,各種団体の選挙などに電子投票を導入することで電子投票システムの安全性・信頼性を図るとともに実際導入した際の效果分析及び投票端末機器の改善を図る予定である。電子投票の信頼性確保のためには、技術開発・社会的、法的制度整備が必要である。韓国の電子投票の場合、様々な情報セキュリティ技術の導入、有権者の投票データを紙で印刷して検証するなど信頼性確保に努めている。機器の技術的な条件・認証・検査等に関わる様々な基準などを検討する「電子選挙実務推進団」が関連機関・専門家によって構成され、技術的条件・社会的、法的制度などのクリアすべき問題点に対応している。

 以上をまとめると、韓国の電子投票システムの特徴としては次のことが言える。

 まず第一の特徴は、日本とは違って2008年国会議員選挙(以下、国政選挙)に電子投票が全面的に導入されることであろう。日本では、まず地方選挙に導入しその結果を踏まえて国政選挙に導入する戦略であるが韓国はその正反対戦略をとっている。既に整備されているITインフラと導入効果などを考えても国政選挙への導入は可能である。しかし、電子投票を大統領選挙へ一気に導入するには政治的反対がありうるし、地方選挙のみに導入すると限定的な効果しかないので、国政選挙が一番適切であろう。

 二番目の特徴としては、住所地の投票所以外に全国どこからでも選挙ができるシステムである。これは有権者名簿DBシステムの構築と本人確認システムとしての指紋生体認識システムと電子署名、それから選挙区候補者情報を保存できるスマートカード、移動投票所設置等の導入によって可能となる。

 三番目の特徴は、開票作業の情報化による電子開票システムの導入である。各開票所と中央選挙管理委員会間には専用線によるネットワークが構築され開票は中央集中処理システムとして全国の選挙区の開票が行われるので、開票時間の短縮と手続きの効率化が可能である。

 四番目の特徴は、2008年国政選挙の際、海外不在者投票にはインターネット投票システムが導入されることである。これは海外不在者に投票参加の機会を拡大する目的と2012年国政選挙へのインターネット投票システムの導入を踏まえた結果である。インターネット選挙システムの導入は今後電子投票はいずれインターネット選挙へ進化していくという予測のもとでIT先進国のインフラと経験を生かしてインターネット選挙の世界標準などを考えた戦略的選択といえる。

 五番目の特徴は、公職選挙だけではなく、住民投票、民間から委託される選挙、例えば教育委員会選挙・政党予備選挙・農協組合長選挙などと民間選挙を支援するシステムを同時に構築することである。これは電子投票の導入が公職選挙のみを視野に入れたシステムではなく、基本的には様々な選挙の支援とより便利で効率的な政治参加手段を国民へ提供することによって電子民主主義の実現がその目標であることを表している。

 韓国の電子投票システムは、有権者名簿DB構築、電子投票・選挙行政システム、電子住民投票及び民間選挙支援システム、インターネット選挙システム、そして候補者ポータルシステム、選挙管理業務ポータルシステム及び国民に選挙情報と政党・候補者の政策など総合的な選挙サービスを提供する国民選挙総合ポータルシステム等の構築を通じて実現する。つまり、選挙行政全般にわたる構造改革であり民主主義選挙システムの再構築を目指しているのである。